「 英国のEU離脱で深まる自国第一主義 西側民主主義の限界に自信深める中国 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年7月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1140
日本を含む西側諸国は、自由と民主主義こそが大事であり、中国にはそれが欠けているとして、中国を批判してきた。だが、6月23日の英国の国民投票の結果を見て、中国は、西側の民主主義とはこんなものかと、自信を深めているだろう。
ロシアと中国は6月23日と25日、ウズベキスタンと中国の北京で立て続けに異例の首脳会談を行った。西側の混乱を分析し、それをどのように自分たちの勢力拡大につなげていくかを話し合った。発表された資料から、両国が宇宙における軍拡競争をも念頭に共同戦線の構えであることが読み取れる。
EU(欧州連合)離脱は、連合王国英国の輝きを、およそ全て消し去るほどの負の影響をもたらすだろう。国土の3分の1を占めるスコットランドは、スコットランド領内にある北海油田、および英国の原子力潜水艦の母港といわれるクライド海軍基地を持って、英国から独立するだろう。
米国系銀行を筆頭に、各国金融機関は欧州本部をフランスのパリ、またはアイルランドの首都ダブリンに移し、英国経済の柱であり続けてきた金融センター、ロンドンのシティーも力を落としていきかねない。蛇足だがアイルランドは英国領にとどまっている北アイルランドと異なり、1949年に完全な独立を果たしている。
EUの側からは英国の離脱決定直後から早期の手続き開始を要請する声が上がった。離脱後の政策を描き切れておらず、ゆっくり手続きを進めたい英国とは対照的だ。
英国が連合王国の座を自ら放棄し、小国へと縮小していくプロセスからEUは学べるだろうか。疑問である。どの国も、英国と同じように全体像を見渡すことなく「自国第一」の排他的思考に陥りつつある。
フランスの極右政党、「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首、ドイツの「ドイツ人のための選択肢」党首のフラウケ・ペトリー氏ら、強硬派が力を付けている。オランダ、ポーランド、チェコ、スロバキア、オーストリアでも同様の傾向が色濃い。EUにはいま、自国第一主義の遠心力が働いている。
バラバラになりかねないEU、弱くなる米国とEUの関係、その間隙を中国もロシアも突いてくる。
「産経新聞」が6月29、30の両日、1面トップで報じた東シナ海における中国人民解放軍の空軍機の自衛隊機に対する威嚇行動はその一例である。元航空自衛隊の織田邦男元空将が、中国軍戦闘機が「攻撃動作を仕掛け、空自機がミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱した」と明らかにした。「産経」の石鍋圭記者がさらに中国軍戦闘機が6月17日を含めて複数回、空自機に攻撃動作を仕掛けたと報じた。
これまで空自と中国空軍の間にはこれ以上は互いに接近しないという暗黙の了解があった。しかし、いま中国空軍はその一線を越えたのみならず、空自機に正面から向き合う体勢を取った。織田氏はこれを事実上の戦闘態勢と指摘したが、中国の挑戦は空だけでなく海でも起こっている。中国が初めて沖縄県尖閣諸島および鹿児島県口永良部島の海に軍艦を入れてきたことは先々週の当欄で指摘したばかりだ。
東シナ海での対日策の強硬化に見られるように、中国もロシアも西側の混乱を利用して攻勢に出てくるだろう。
そしていま、私たちは参議院議員選挙の真っただ中である。国際社会が類例がないほどに変化する中で、どのように日本の国益を守っていくのかが争点にならなければならないはずだ。
そうした中、民進党が先に成立した安全保障法制廃棄を公約しているのは責任政党として常軌を逸している。取り消しはしたが、またその発言故に辞任はしたが、自衛隊予算を「人を殺すため」などと言う政策委員長のいた共産党と組むのも同様に常軌を逸していると、厳しく指摘したい。