「 韓国で日韓基本条約に伴う訴えを却下 必要な歴史の学び直しと冷静な反論 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年1月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1115
韓国の憲法裁判所が2015(平成27)年12月23日、1965(昭和40)年の日韓基本条約に伴う請求権協定で、韓国人の個人請求権も含めて「完全かつ最終的に解決された」と定めたことは違憲だとする訴えを却下した。
却下の理由は請求権協定の内容は「合憲だ」と認めたからではない。訴え自体が法的要件を満たしていない、手続きに問題ありとする却下である。
結果、当面の摩擦は緩和されるかもしれないが、対日賠償請求が蒸し返される可能性がある。韓国の最高裁判所は3年前に元徴用工の個人請求権を認めており、日本企業に賠償を命ずる判決も続いている。
朝鮮半島の徴用工について、「日本がひどい扱いをした」というイメージが日本人の間にも存在する。だが事実は必ずしもそうではない。日本人が知っておくべきこうしたことを佐谷正幸氏が教えてくれる。
氏は32(昭和7)年、福岡県飯塚市に生まれ、九州大学工学部採鉱学科を卒業し、三菱鉱業(現在の三菱マテリアル)に勤めた。幼友達にも朝鮮の子供たちがいて、朝鮮人労働者が日本人労働者と一緒に働いた炭鉱問題を研究してきた。2015年6月19日の「日本時事評論」誌上で語っている。
・「三菱飯塚炭鉱史」には、42(昭和17)年当時、定住労務者の確保は朝鮮人によるしかないと記されており、石炭増産は朝鮮半島出身者に依存していた。
・会社は、労務者に長期に働いてもらうために社宅を整備し、給料も日本人と同等に支払っていた。
・詳細な記録が残っている明治赤池炭鉱の45(昭和20)年1月から5月までの労務月報によると、力仕事である炭鉱夫の日当は5カ月平均で、内地人(日本人)が4円65銭、朝鮮人が4円66銭だった。わずかだが朝鮮人の方が高く、事実上同等だった。
・技術を要する仕操夫は日本人が4円64銭、朝鮮人が4円40銭だった。1日に24銭の差があるが、これは新参の朝鮮人の技能が未熟だったためと思われる。
・44(昭和19)年の九州一帯の炭鉱では、日当に各種手当が加算された。結果として月収は150円から180円、勤務成績の良い労働者は200円から300円も取るケースもあった。
・当時の巡査の初任給は月額40円、事務系の大学卒業者は75円だった。上等兵以下の兵隊の平均俸給は10円弱だった。比較すれば朝鮮人労務者の給与は悪くない。
日本が彼らを搾取し続けたという非難はこうした基礎的情報では根拠を欠く。佐谷氏は、当時の炭鉱の所長の話を紹介してこうも語っている。
・労務者が死亡した場合は、会社は遺骨を朝鮮の遺族に届け、扶助料と弔慰金も渡して「戦死者と同様の扱い」をした。
現場に基づく生の情報を知ってみれば、日本人が朝鮮人をひどい目に遭わせたという負のイメージはかなり修正されるのではないか。事実をもって語らしめることが大事であるゆえんだ。
日本の高齢者は、いまこそそうした記憶を次の世代やそのまた次の世代に伝え、実像に近い歴史観を若い世代が抱けるようにすべき時だ。なぜなら来年も再来年も、中韓両国は必ず熾烈な「歴史戦」を日本に仕掛けてくるからだ。中国はすでに「日本の蛮行」は「歴史の定説」だと繰り返し表明している。彼らの挑戦に、日本側が事実をもって冷静に反論できるように、歴史の学び直しと戦争の記憶を持つ世代の導きが必要な局面である。
同時に私たちは事実に対して謙虚でもありたい。例えば幾つかの炭鉱では朝鮮人労務者の死亡率がかなり高かったという統計もある。こうした負の側面も含めて歴史を論ずることが隣国のむちゃな主張を退ける賢い道である。