「 15年は安倍政権にとって重要な年 憲法改正に向けた議論の本格化を 」
『週刊ダイヤモンド』 2015年1月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1066
安倍政権と日本にとって、2015年は極めて重要な年だ。14年末に発足した第3次政権の抱負として、安倍晋三首相は「強く誇りある日本」をつくり、「戦後以来の大改革」に「全身全霊を傾ける」決意を表明した。多くの国民が願ってきたことを明言化した決意表明は心強かった。
なぜ、強い日本が必要か。14年12月25日、シンクタンク「国家基本問題研究所」主催の国際シンポジウム、「国際情報戦をどう戦うか」に参加したペンシルベニア大学教授のアーサー・ウォルドロン氏が以下のように分析する。
中国は尖閣諸島を諦めない。米国は手を出さないと中国が確信したとき、中国の軍事行動が起きる可能性は大だ。米国は小さな岩島のために軍事介入はしない。なぜなら、米国の対中軍事介入は米中核戦争に行き着く危険をはらむ。米国のみならず、どの国も他国のためにそのような危険は冒さない。
他方、東シナ海における日米の軍事力と中国の軍事力では現在は日米が中国を圧倒するが、米国の大幅軍事費削減と中国の大幅な軍拡、日本のほとんどゼロに近い軍事費微増を考えると、日米の優位は、最大あと10年である。
その間にできるだけ早く、日本は英国やフランスのような国になる必要がある。その核心は原子力潜水艦を造り、核兵器を搭載して保持することだ。大きなけん制力を持たない限り、いかなる外交も交渉も力によって押し切られる。中国を含むどの国も弱い国の主張になど耳を貸さない。強い国になったとき初めて、日本の主張は聞いてもらえるということだ。
もう一点、なぜ誇りある国にならなければならないかである。習近平国家主席が偉大なる中華民族の復興だとして国威発揚に努める中で、日本を最悪の敵と位置付け、捏造した歴史を広め続けている。米国を主舞台とする中国の対日歴史戦争が大胆に加速されたのが14年だった。韓国による慰安婦像設置の動きを中国が代行し、反日運動の主軸を握り、対日歴史戦争の前線に中国が立った。15年彼らは、韓国に次いで台湾を引き込み歴史戦の最大のヤマ場をつくる。それを基に今後末長く日本封じ込めをもくろむだろう。
北京郊外の盧溝橋にある「中国人民抗日戦争記念館」の東側で「台湾館」の建設が始まっている。台湾における日本の「悪政」と台湾人の命を懸けた抵抗運動の証しを展示するそうだ。
台湾の人々は今でも、日本統治時代を懐かしむ。国交がない現在も彼らの日本の記憶は、日本の後にやって来た国民党政府、さらには中国人への強い嫌悪感とは対照的に、非常に好意的である。現在の台湾をして、世界一の親日国にせしめている理由は日本統治時代の積極的な評価なのである。それを中国はねじ曲げ捏造するというのだ。
歴史捏造国家の中国の主張に対して、一つ一つ、その都度、きちんと反論し続けるには、信念と知識に加えて、日本に対する誇りと信頼が、絶対に必要である。歴史戦に敗れないためにも、安倍首相の強調した日本に対する誇りが必要なゆえんである。
歴史のこの局面で全身全霊を傾け戦後以来の大改革を進めていくという首相の言葉を、少しでも多くの国民に共有してほしいと、私は願う。
戦後以来の大改革とは、日本国の全ての価値観の土台でありながら日本人の価値観や伝統と大きく離れている現行憲法の改正である。14年末の総選挙も、憲法改正に向けて安定した勢力を得て、数年間、腰を据えて仕事をする時間をつくるためだったはずだ。準備は整った。周囲の状況も風雲急を告げている。15年こそ、憲法改正の議論を本格的に始めたい。そのために私たちは何よりもまず、島国の視線を脱したい。広く国際社会を観察すれば、日本の直面する危機が分かるはずだ。