「 原油価格急落で窮地のロシアを他山の石にすべき日本の現状 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年12月27日・2015年1月3日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1065
ロシアのプーチン大統領が深刻な苦境に陥り、経済に構造的問題を抱える国の弱さが露呈された。そのことはしかし、膨大な財政赤字でもなお、経済の構造改革に抵抗し、岩盤規制を打ち破れない日本にとって、他山の石でもある。
ロシア経済が自立できない最大の要因はものづくりができず、原油、天然ガス、木材などの第一次資源輸出によって支えられている発展途上国型の経済にとどまっていることだ。
原油輸出への依存度はとりわけ高く、政府歳入の4割を占める。その原油価格が大幅かつ急激に下落中である。2014年6月には1バレル107ドルだったが、12月10日には70ドルを割った。ロシア政府の予算は1バレル100ドルを前提に編成されており、60ドル台突入は政権基盤を激しく揺るがす。
ところが、12月16日、原油価格はさらに50ドル台に急降下した。これはロシアに対する西側陣営の一致団結した経済制裁の結果である。
ウクライナからクリミア半島を奪った後も、ロシアはウクライナとの国境に万単位のロシア軍を展開させ、ウクライナ東部の州をうかがっている。ロシアは否定するが、ウクライナ国内の親ロシア派への実質的な支援も続く。
オバマ米大統領はウクライナ問題への軍事介入をいち早く否定したが、米国でのシェールガス生産が実質的なロシア制裁となった。シェールガスが比較的安価で大量に生産され始め、世界の原油価格が下がり始めたときに、世界最大の産油国サウジアラビアが減産を否定した。
12月16日の原油価格大幅下落は、石油輸出国機構(OPEC)加盟の一部の国が緊急会合の開催を求めたのに対し、アラブ首長国連邦のエネルギー担当相がその必要はないと述べ、OPECが「原油価格に関する目標値はない」との考えを公表したことが直接の引き金であるのは明らかだ。
サウジアラビアを軸とするOPEC諸国が事実上、もっと価格が下がっても許容する、当面減産はないと表明したわけだ。この強固な意思表明はウクライナ領土を力で奪い、国民を弾圧し続けるシリアのアサド大統領や核開発疑惑のイランを支援し続けることは許さないという決意でもある。そのことをロシアに分からせるために、中東の産油大国らが米国と協力してロシアの泣き所を突いたのだ。
米大統領経済諮問委員会のファーマン委員長は12月16日、「ロシア経済の変調は(ウクライナ問題など)ロシアが国際ルールに従わなかった結果だ」と述べた。オバマ大統領は対露経済制裁の強化を可能にする法案に12月第3週に署名する見通しである。その一方でケリー国務長官は、ロシアがウクライナ問題で「建設的な行動を取る兆候がある」との見方を示した(「産経新聞」12月18日)。
第一次資源の輸出に依存するロシア経済の脆弱性故に、プーチン大統領はいま、西側に屈服せざるを得ない状況に立つ。経済制裁で西側社会がロシアの蛮行を阻止できるのはこの上ない朗報だ。しかし、立場が入れ替わった場合はどうか。
強大な軍事力を備える中国は、自らが主導する金融機関や貿易圏を創設しつつ、侵略を続けている。世界の国々を、軍事力だけでなく経済、金融の力で中国に従わせる仕組みをつくっているのである。そうした中国に対して、日本は急いで軍事力のみならず、経済力においても強い国へと再生しなければならない。
そのためにアベノミクスの成功は絶対に欠かせない。岩盤規制を打ち破り、経済成長を促し、企業の力を強化し、働く人に還元していくことで揺るぎない国家基盤をつくることを、観念だけでなく実行で示したい。企業、業界、日本人全体が進取の気性で経済改革を進めるときだと思う。