「 国民の信を得た今、歴史的使命を果たせ 」
『週刊新潮』 2014年12月25日号
日本ルネッサンス 第636回
衆議院議員選挙の前日まで、新聞各紙には自民単独で3分の2を超える317議席以上という数字が躍り、自民党300議席超えが半ば確定的に報じられていた。結果、自民党は2議席減の291だった。
予想されていた勝ち振りが余りに華々しかったために、意外の感を抱いてしまうが、この数字は、しかし、たしかに自民党の圧勝なのである。前回の選挙で大量当選した1回生議員もほぼ全員再選を果たした。これも驚くべきことだ。大勝した次の選挙で1回生の殆どが落選してきたこれまでの選挙を考えると、今回はかつてない勝ち方であり、安倍晋三首相と政権への信任を示すものだ。首相の政権基盤は確実に強化されたといえる。
投票率が低かったことを政治不信につなげる意見もある。だが、民主主義国における選挙結果は国民の明確な意思である。自民党大勝利という結果は、日本が直面する内外の諸問題・中国の脅威と米国のアジア政策に対する不安、憲法改正の歴史的必然性、皇位継承と皇室問題、経済成長のための改革・これら重要課題の解決を安倍首相に期待する国民の声に他ならない。
安倍首相には、自らの信念に基づいて戦後体制が抱えるこれらの課題に本質的に切り込むことが期待されている。その時期は今を措いてなく、この大事な局面で強固な政権基盤を与えられた首相は、まさに歴史的使命を担っているのである。
安倍首相はかねてより、自分の歴史的使命は憲法改正だと述べてきた。その言葉が本物であることは、首相の行動が示している。第一次安倍内閣で憲法改正のための国民投票法を成立させ、第二次安倍内閣では同法の投票年齢を18歳以上に引き下げる改正を行った。12月14日の選挙後の記者会見では「憲法改正はわが党にとっての悲願だ」と語り、夜、各テレビ局の取材に対して「国会における3分の2の勢力を確保しても、国民投票で過半数の支持を得なければならない。国民の理解を深めるところから進めていきたい」と語った。
平和という言葉の幻想
首相の憲法改正にかける気持ちは真摯であり、今回、多くの人が驚くタイミングで選挙に打って出た背景には、圧勝して憲法改正に向けての動きを加速させたいとの思いもあったのではないかと思う。
選挙結果は大勝となったが、憲法改正の視点で考えれば、大勝の中に負の要因も見てとれる。憲法観を共有し、安倍首相の心強い支えとも推進力ともなり得る次世代の党がほぼ潰滅状態に陥った。渡辺喜美氏の勢力も消滅した。反対に共産党が21議席を確保し、法案提出権まで持った。憲法改正については往々にして自民党のブレーキとなってきた公明党も議席を伸ばし、民主党も増えた。憲法改正にマイナスの要因が増したわけで、それだけに安倍首相はしたたかに準備する必要がある。
まずアベノミクスを成功させて経済成長の恩恵を広く国民に行き渡らせ、首相への信任をさらに高めることだ。国力を強化させつつ、日本があらゆる意味で進化を遂げなければ、厳しい国際社会で生き残れないことを、国民にわかってもらうことが重要だ。
経済成長には合理性と創意工夫が欠かせない。農協改革を進め混合診療を拡大し、首相の言う岩盤規制を打ち破り、果敢に開国してみせることだ。新たな挑戦であるTPPも実現してみせることだ。その方向に日本が進み始めるとき、アベノミクスは豊かな恩恵をもたらすはずで、勇気ある変革の中にこそ成長を担保し、国力を強化する力があることを、生活実感と結びついた形で国民に示す事例になるだろう。こうした上で、世界の現状に向けて国民の目を開かせていくことが大事だ。
中国はいまや公然と国際法や国際秩序に挑戦し始めた。南シナ海の中国の領有権は2000年前から確立されていると主張し、防空識別圏や排他的経済水域に彼ら独自の法解釈を適用し始め、他国のプレゼンスの排除に乗り出した。
にも拘らず、日本人の国防意識は、憲法改正の必要性を感ずるどころか、怠惰な眠りの中にある。中国は尖閣周辺海域に日常的に公船を侵入させ、日本国民がとりたてて反応しない水準まで「常態化」させた。それでもまだ、日本国民の中には集団的自衛権の行使容認に反対する声がある。国防へのこの無頓着と非常識が中国の跋扈を許し、小笠原、伊豆両諸島海域には220隻に上る中国漁船が押し寄せる事態にまでなった。海上保安庁などの船5隻では到底、対処できない。そういう状況の日本だから、中国漁船群は、2012年7月には五島列島福江島の玉之浦湾にも易々と侵入した。彼らは、望めばいつでも日本の海に侵入できるのだ。
平和という言葉の幻想に縛られ、軍事に関する一切に対しての拒否反応に染まる現行憲法の精神の矛盾を今こそ大いに指摘すべきだ。
圧倒的支持を足場に
自衛隊や海保の装備と人員を増やし、憲法、法律上の空白も埋めていこう。集団的自衛権に関する7月の閣議決定は、安全保障に関する戦後の無責任体制と決別する偉業だった。それはしかし、ポジティブリストの項目を増やし、実際の国防のための運用をより複雑にしかねない。安倍首相が目指すべきは、ポジティブリストの自衛隊からネガティブリストの自衛隊へと、真の国防に向けた質的変換をはかることだ。一連の作業を経たとき、初めて日本は歪な非戦国家から国際社会のまともな普通の国になれる。
歴史において、日本は幾度かの戦争を戦った。その中で日本国に殉じた人々がいて、現在の日本がある。その英霊を慰め、感謝を捧げることは、国民を代表する首相にしか果たせない重要な責務である。
日本人の精神的支柱のひとつであるその大事な靖国参拝を中国の対日歴史カードにさせ続けないために、叡智を結集すべきだ。中国は戦後70年の来年を対日全面的歴史戦争の年と定め、12月13日には、南京大虐殺記念館で習主席が日本軍の30万人虐殺説を根拠もなく述べた。中国の挑戦に屈服しない道は唯ひとつ、王道を歩み続けることである。首相は靖国参拝の心を世界に発信し続け、毎年静かに参拝を続けるべきである。
今回の選挙結果は、アベノミクスを含めた安倍政権2年間への総合評価なのである。戦後70年の道のりで私たちが置き去りにしてきた大事な価値観を、安倍首相なら取り戻し、国の根幹を正せると、国民が信頼を寄せたのである。
国民が安倍首相を圧倒的に支持したことを足場として、首相は経済、国防を強化し、憲法改正を国民に説き、独立国の宰相としての姿を鮮明にしてほしい。毎年、靖国神社に参拝し、英霊への感謝と礼節を示して国民の誇りを取り戻すことこそ、歴史が安倍首相に託した使命である。