「 強過ぎれば抑えにかかるのか 振り払えない米国への疑惑 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年12月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1064
タカタ製のエアバッグ問題が全世界に広がりつつある。作動時に破裂して金属片をまき散らす問題でタカタの対応を見るにつけ、約3年前にトヨタ自動車がどれだけひどい目に遭ったかを思い出してしまう。
私はこの問題を直接取材したわけではなかったが、「ニューヨーク・タイムズ」や「ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)」などの報道を見て、なぜトヨタが最終的に捜査当局に12億ドル(1ドル100円換算で1200億円)、集団訴訟で11億ドル(1100億円)、合計2300億円もの大金を支払わなければならないのか、全く理解できなかった。
トヨタ車は「意図しない急加速」をするとされ、その被害に遭ったというドライバーが次々に名乗りを上げた。米国のテレビ局はそのドライバーが必死に車を止めようとしてもコントロールが利かない、助けてくれと叫ぶ声を電話で中継して報道したりした。
こうした被害者の声に米国世論はトヨタ批判で沸騰し、米道路交通安全局(NHTSA)と米航空宇宙局(NASA)が調査に乗り出した。
10カ月間にわたって行ったあらゆる面からの調査の結果、「突然の急加速の原因は、広く疑われていたようなトヨタ車のソフトウエアの欠陥事故ではなかった」ということが判明した。
WSJの2011年2月8日の社説には、「事故の幾つかはペダルの踏み間違いによるものだった」と書かれている。同紙はさらにこうも書いている。
「多くの人々がトヨタ車の電子部品に問題があると考えていた。28万本に上るソフトウエアのコードが分析されたが、異常は1件も発見されなかった」「突然トヨタ車が加速したと主張したユーザーの車のブラックボックスが徹底的に調査されたが、ここでもメカニカルエラーは見つからなかった」「そこで判明したそれらしい原因は、ペダルの踏み間違いということだった」
ちなみに「トヨタ車が止まらない、助けてくれ!」という絶叫を、自らがテレビ局にかけた電話で全国に中継したドライバーの訴えはうそだったことも判明した。10カ月の調査は、証言者の訴えはうそだったこと、急加速の原因はトヨタ車のメカニズムの欠陥というよりドライバーのミスだったことを明らかにした。にもかかわらず、米国におけるトヨタ憎しの追及は緩まなかったのである。
米国全体がトヨタたたきで興奮のるつぼに落ち込んだかのような状況下で司法が乗り出し、トヨタは法外な金額を支払わせられた。
先述したように、私はトヨタのケースを直接取材したわけではない。だが、報道とNASAなどの調査結果を読んだ限りでは米国のトヨタに対するやりようは、米国の司法の公正さに疑問を抱くのに十分な根拠を示していると思わざるを得ない。
以下はトヨタの事例を大きく超えて日米関係の枠の中で、私が米国の対日姿勢について抱いている漠とした、しかし、決して振り払うことのできない疑惑である。
米国は、いかなる分野でも日本が強くなり過ぎると抑えにかかるのではないか。その姿勢はトヨタに対するものだけではないのではないか。そのように感ずるだけに、米国におけるビジネスについても、日本企業は大いに注意しなければならない。どんなに小さなミスであっても油断してはならないのである。
タカタのエアバッグに関しては、すでに死者が3人も出ていると報じられている。であれば、なぜ、タカタはこれほど対策においても、説明においても後手後手になってしまったのであろうか。
日本企業が、まさに弱肉強食の米国で生き残るには、米国に対する理解があまりにも浅く、甘いと考えつつ、大いに心配するものだ。