「 民意の成長が果たせなかった沖縄県知事選現職敗北の“失望” 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年11月29日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1061
沖縄県知事選挙は自民党支持の現職、仲井眞弘多氏が対立候補の翁長雄志氏に10万票の大差で敗北した。私は今回の知事選にとりわけ注目していた。なぜなら、沖縄で今回の仲井眞氏ほど鮮明に基地問題を真正面に掲げて前向きに闘った候補者はかつていなかったと思うからだ。仲井眞氏が勝利すれば、それは沖縄の民意の成長の証しであり、そこから新しい可能性が生まれると感じていた。
だが結果は仲井眞氏の大敗北だった。争点は言うまでもなく、普天間飛行場を沖縄本島北部の辺野古に移設するか否かだった。当選した翁長氏は「辺野古に新たな基地は造らせない」と、次の点を強調した。
・住民の意思を無視して辺野古に新たな基地は造らせない。沖縄県民の自己決定権と尊厳を尊重せよ。
・安倍政権の威勢のいい前のめりな言葉で尖閣問題を解決しようとすれば将来に禍根を残す。安倍晋三首相は平和外交と国際法にのっとって解決せよ。
・基地の負担軽減が大事だ。
私は選挙の熱い風が吹く沖縄に二度、足を運び取材をしたのだが、翁長氏の主張が矛盾だらけであることは明白だった。その矛盾を明確に指摘していたのは仲井眞陣営だった。
翁長氏の主張に対して仲井眞氏は、具体的に反論していた。まず、基地負担軽減のために、普天間から辺野古に移すのだとの主張だ。普天間飛行場の広さは480ヘクタールだが、辺野古の飛行場はその約3分の1の面積になる。普天間からの移設をきっかけに米軍再編成が進み、嘉手納以南の基地全て、総面積約1000ヘクタールが返還される。北部訓練場の一部も返還され、沖縄県民の手に戻される基地面積は5000ヘクタールに上る。これこそ、沖縄県民の基地負担を軽減する道だと、仲井眞氏は主張した。
だが、翁長氏はひたすら、「辺野古に新たな基地は造らせない」「本土は沖縄を犠牲にし続けている」と言うばかりだった。
辺野古への移転を許さないのであれば、普天間はどうするのか。普天間に飛行場ができた後、付近には次々に住宅や学校が建てられた。いま同飛行場の周囲には住宅が密集し、向かい側には小学校もある。普天間は世界一危険な飛行場だ。だからこそ、一日も早く移設しなければならない。
翁長氏はその具体策は何も示さない。基地負担の軽減策も示さない。
翁長氏は尖閣諸島の問題について安倍首相が「威勢のいい前のめりな言葉で解決しようとする」とも非難するが、前のめりで尖閣諸島周辺海域に侵入し続けているのは中国である。日本政府でも安倍首相でもない。
翁長氏は、平和外交と国際法にのっとって尖閣問題を解決しろとも安倍首相に要求するが、お門違いだ。その言葉は中国に向けるべきである。中国こそ、日本のみならず東南アジア諸国など全ての国と平和裏に問題を解決しなければならない。国際法を無視して他国の領土・領海、権益を侵す行動を慎まなければならないのは中国である。
本当に基地を減らし、中国に対処できるのはどちらの候補者か。答えは明らかに仲井眞氏だった。尖閣の海を守れるのも仲井眞氏だった。そのことに沖縄県民は気付くだろうか。中国の脅威が顕著な沖縄で、県民がその事実を直視すれば、仲井眞氏は勝てるはずだと私は考えた。
だが仲井眞氏を支持した有権者は約26万人、他方、36万人が翁長氏に票を投じた。非合理的主張を展開するばかりの翁長氏はかつて自民党県連の幹事長でありながら、今回は共産党や社民党と組んだ。そんな人物の主張が支持されたのだ。
沖縄で取材中に聞いた言葉が胸に残っている。「基地問題に主体的に取り組もうとする仲井眞陣営が勝てば、それはわれわれ県民の成就の証しです」。結果は逆、返す返すも残念だ。