「 勤労奉仕団の高齢者を拒否した宮内庁は再考を 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年10月11日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1054
10月1日、東京の憲政記念館で「美しい日本の憲法をつくる国民の会」(以下、美しい憲法の会)の発足式が行われた。2016年7月をめどに憲法改正を目指す人々の会である。
私は代表世話人の1人だが、憲法改正の重要性を説いていく役割の世話人、43人中13人、3分の1弱が女性だった。この種の会は硬派の男性が中心軸になりがちだが、美しい憲法の会は、これまでとは異なるのだ。
いま、国会では、憲法改正の発議に必要な衆参両院における3分の2の支持が固まりつつある。私たちは戦後初めて、本当に、憲法改正の局面に立とうとしている。憲法改正で日本をまともな独立国につくり直していくとき、女性の参加と視点がこの上なく重要である。多くの女性たちが集ったことはその意味で素晴らしかった。
もう一つ、美しい憲法の会にブラジルから多くの日本人が参加したことも素晴らしい。移民1世で農場経営に成功し、教育勅語を若者に教えている人、2世で日本を学び続けている人、夫人と農薬も化学肥料も使わない有機コーヒーで見事にJAS(日本農林規格)の認証を取得した人など、多彩な顔触れだった。
皆一人一人壇上に立って、遠いブラジルからいつも日本を応援していること、1日も早く憲法改正を実現して立派な日本国になってほしいなどと語り、大きな拍手を浴びた。この方々と語り合っていたとき、彼らの日本を思う気持ちを拒むような気になる「事件」を聞いた。
約30人のこの方々はブラジルの日本会議の人々で、2年に1回、彼らが心を寄せる祖国、日本を訪れる。戻ってくるたび、勤労奉仕団として皇居で働かせていただけることに感謝し、日本人として海外で暮らす日々を支える活力とも誇りともしてきた。
ところが今年、75歳以上の人は駄目だと言われ、30人中、約10人が門前払いされた。皇居での勤労奉仕には75歳を上限とする規則があるそうだ。しかし、従来は緩やかに運用され、80歳以上の人も許されてきた。それが今年突然、拒否されたのである。
背景には、国内の奉仕団の中に75歳以上の方がいて、奉仕作業中に体調を崩したケースがあった。そこで責任論が起き、宮内庁は問題に巻き込まれたくないと考えたのではないか。それがブラジル奉仕団の高齢者の拒否となったのではないか。
長旅で日本に到着したブラジル奉仕団の人々は、急変した運用にさぞかし驚き、落胆したことだろう。それでも彼らは諦めなかった。勤労奉仕当日の朝まで医師の指導を得て、団長が全員の体調管理に責任を持つという誓約書を提出した。何があっても自分たちが責任を持つ旨も明記した。
しかし、宮内庁側は頑として受け付けない。国内の奉仕団にも同じ基準を適用しているので、ブラジル奉仕団だけ特別扱いはできないとの主張だ。
しかし、これまではルールを緩やかに運用してきた。皇室に対する国民の思慕の発露としての勤労奉仕を、宮内庁も尊重しおおらかな気持ちで受け入れてきたのではないか。いま、かたくなに退けようとするのは、単に、病人が出た場合の責任を取りたくないということではないのか。そのような役人の考えこそ皇室への国民の敬愛の情を殺ぐものだ。
天皇、皇后両陛下はご高齢でも、現在も全国を行幸啓なさり、力を尽くしてご公務にまい進なさっておられる。国民もまた75歳や80歳の壁の前で立ち止まることなく、働きたいと願うのは自然なことだ。宮内庁の再考を促したい。ブラジルから熱い思いを胸に来日した日本人の心を全面的に受け入れていくことこそ、大切であり、それが彼らの心の祖国である日本国のありようだと思う。