「 不都合な真実に頬かぶりする朝日 」
『週刊新潮』 2014年8月7日号
日本ルネッサンス 第617回
「朝日新聞」の綱領には「不偏不党の地に立って言論の自由を貫き」、「正義人道に基いて国民の幸福に献身し」、「真実を公正敏速に報道」するなどの美しい言葉が並んでいる。
だが同紙の慰安婦報道を検証すれば、綱領は誇大広告の域を超えた虚偽声明に思える。朝日が「国民の幸福に献身し」、「真実を公正敏速に報道」した事例はどこにあるのかと問わざるを得ない。
朝日の慰安婦に関する誤報と、それを指摘されても訂正しない頑なな姿勢こそが、過去、現在、未来の日本国民を不名誉と不幸の淵に追いやるのである。韓国人を激怒させた挺身隊=慰安婦という報道の誤りを幾度指摘されても、朝日は未だに訂正せず、頬かぶりを続ける。
このような朝日によって、シンクタンク「国家基本問題研究所」(国基研)の意見広告が事実上の掲載拒否に遭っている。
6月20日、政府は河野談話作成経過に関する検証報告を発表したが、同報告は、詳しく読めば読むほど不十分な内容だった。そこで国基研は、さらなる検証が必要で、河野洋平氏と談話作成に深く関わった内閣外政審議室長らを国会に招致し、説明を求めるべきだと考え、「『河野談話』の検証はまだ終わっていません」と題する意見広告を作成した。
同広告の主旨は以下のとおりだ。
◎慰安婦問題を巡って「セックススレーブ(性奴隷)20万人」という事実無根の中傷が世界中に広まっており、検証はなされて当然だった。
◎しかし、その内容は、河野氏と外務省の謝罪外交の失敗を覆い隠すものであり、これでは、汚された日本人の名誉は回復されない。
◎平成4年1月の訪韓で、宮澤喜一首相は8回も謝罪したが、その時点で慰安婦強制連行の有無を政府は調べていなかった。
◎「私は女の狩り出しを命じた」(吉田清治氏)というありもしない証言と朝日新聞の誤報で激高した韓国世論におもねって、政府はその場しのぎで謝った。
◎国益と名誉を回復するために、談話作成に責任を負う河野氏と外務省関係者の国会での説明が不可欠だ。
「スペースがない」
読売、朝日、毎日、産経、日経の全国紙5紙に右の意見広告掲載を国基研が申し入れたのが7月4日だった。朝日を除く4紙は7月17、18、19日のいずれかに広告を掲載した。ところが朝日だけ、7月29日現在、掲載に至っていない。
その間の7日に、朝日から国基研宛に質問状が届いた。意見広告の文中に①「平成4年1月の訪韓で、宮澤喜一首相は8回も謝罪」、②「朝日新聞の誤報で激高した韓国世論」とあるが、裏付け資料はあるかとの問いだった。
国基研は、①については「平成4(1992)年1月18日の朝日が報じている」と回答した。同日朝刊のコラム「時時刻刻」で朝日自身が、宮澤喜一首相が「『謝罪』『反省』に8回も言及した」と明記している。
②についてはこれ以上ないほど、確かな証拠がある。当欄でも複数回指摘したが、植村隆記者が、平成3年8月11日、ソウル発の記事で慰安婦とは無関係の女子挺身隊を慰安婦と結びつけて以下のように報道した。
「日中戦争や第二次大戦の際、『女子挺身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、1人がソウル市内に生存していることがわかり、『韓国挺身隊問題対策協議会』が聞き取り作業を始めた」
植村記者が取り上げた右の女性がその3日後、ソウルで記者会見した。彼女は金学順という実名を公表し、生活苦のために14歳で親に売られたと語った。
金学順氏は、勤労奉仕の若い女性たちで構成する挺身隊とは無縁の人だ。従って、彼女が女子挺身隊として戦場に連行された事実はあり得ない。そもそも、女子挺身隊の若い女性たちが連行され慰安婦にさせられた事実は、一例もない。全くない。にも拘わらず、貧しさ故に親に売られた金学順氏を材料にして、植村記者は日本と日本軍を貶める偽りを報じたのだ。この誤報を朝日は社説及び天声人語で取り上げ、拡散した。
国基研はこのようなことを指摘して朝日の問いに答えた。すると、パタリと音沙汰がなくなったのである。意見広告掲載について他紙との事務手続きが進む中で、朝日だけがなしのつぶてとなった。
そこで国基研が問い合わせると、「(国基研の希望する)7月17、18の両日は広告スペースがない」との回答だった。国基研は、いつでもよいからスペースがある時点での掲載を希望する旨伝えたが、7月29日現在、朝日からの連絡はない。恐らく、これからもないのであろう。朝日は事実上、掲載を拒否したのである。これを世間では頬かぶりという。
まるで朝日と双子
それにしても、世界には同類がいるものだ。アメリカのリベラル紙「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)も都合の悪い事実を指摘されると、朝日同様、頬かぶりする。
米ジョージタウン大学教授のケビン・ドーク氏は、今年3月2日のNYTの社説に反論を送った。社説は「安倍氏の危険な修正主義」との題で、安倍首相が「南京大虐殺」を否定し、慰安婦への謝罪をご破算にするつもりだと非難する内容だった。
これらは事実でない。そこでドーク氏は、①安倍首相は南京大虐殺を否定していない②一国の首相に対してこのような事実誤認の非難は許されない③安倍首相の発言や、首相が象徴するものは、近隣諸国とりわけ中国を戸惑わせるかもしれないが、軍事行動を取っているのは日本でなく中国である④日本は60年以上、民主主義を貫く信頼に値する国だ─などと書いて投稿した。
3月10日、NYTから質問が届いた。氏の文章の後に、「それでも彼(安倍首相)は(放送作家でNHK経営委員の)百田尚樹氏と共著を出版し、共著本で百田氏は南京大虐殺は捏造だと語っている」とつけ加えてもよいかというのだ。何が何でも安倍首相を「歴史修正主義者」として貶めたいとの意図が読みとれる、姑息な手法である。
「百田氏の見解は首相と無関係」としてドーク氏が拒否したのは当然だった。しかし、これっきりNYTからはなしのつぶてとなったのだ。
NYTは日本政府から抗議を受けて、小さな、そしてどう見ても不十分な訂正記事は出したが、ドーク氏の投稿に関しては無視が続いた。そこでひと月余り後、氏が問い合わせると、「投稿を掲載するスペースがない」と回答してきた。まるで朝日と双子のようだ。
自らの嘘や事実誤認に頬かぶりする恥知らずのメディアが、洋の東西を問わず跋扈していることを心に刻みたい。