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2014.07.31 (木)

中国の異常“軍拡”への新対抗戦略

『週刊新潮』 2014年7月31日号
日本ルネッサンス 第616回

いま、アジアの海では海軍力の再編が進行中だ。焦点は無論、中国だ。

習近平国家主席は「中華民族の偉大なる復興」を、胡錦濤前国家主席は「新世紀に適応出来る強力な海軍の構築」を掲げ、中国はひたすら軍拡を重ね、力をつけた。その力によって国際法を踏みにじり、他国の領土領海を奪い続けて今日に至る。

彼らは、軍拡の真の目的も実態も公開しない。そのため、どの国も中国の意図を理解出来ていない。だが、中国がもっと力をつけたときに必ず展開しようとするであろう戦略がA2/AD(Anti-Access/Area Denial)と呼ばれるものだとは、およそ、皆が知っている。これは第一列島線(日本列島―台湾―フィリピンを結ぶ線)と第二列島線(小笠原―グアム―豪州北部を結ぶ線)の内側に米海軍の艦船を入らせず、中国の支配を行き渡らせる戦略である。

中国のA2/ADに、これまでアメリカは、エア・シーバトル構想で立ち向かうと見られてきた。しかしこれは全面戦争を想定したもので、多くの人命が失われることが想定される。最新鋭のステルス戦闘機をはじめ、中国の重層的な防衛網を潜り抜けるためのハイテク兵器が必要で、コストも莫大だ。

一連の装備の調達は数十兆円に上るという試算さえある。そんな費用を、大幅な軍事費削減の方針を示したアメリカが捻出できるはずがない。そこで、もっと経済的な戦略が考えられてきた。その中で非常に興味深いのが、オフショア・コントロール(沖合制御)である。専門家の間で欠点や問題点が論じられてはいるが、アメリカの次なるステージにおける新国家戦略の最有力案のひとつである。

海上自衛隊幹部学校も沖合制御に強い関心を抱き、戦略研究雑誌『海幹校戦略研究』で昨年から連続して取り上げ、分析を試みている。以下、同誌から拾いつつ、沖合制御戦略を紹介してみる。

止まる中国の物流

同戦略の提唱者は、米国防大学のハメス上級研究員である。国防総省が採用すればアメリカの次なる国防戦略となる同案に、日本はどう関わっていくことになるのだろうか。

まず、沖合制御の概念だ。ターゲットは中国だが、従来の軍事戦略の考えとはかなり異なる。白か黒かの勝敗を求めない戦いである。戦略目的は、中国を降伏させたり中国共産党を崩壊させることではない。目指しているのは、中国がかつて戦った戦争の型である。

中国はこの60年間に約10の戦争を戦った、軍国主義と侵略の国だ。だが、どの戦争を見ても、必ずしも強くはない。朝鮮戦争、中ソ国境紛争、中越戦争などは、敗れはしないものの勝ててもいない。しかし、たとえ勝てなくとも「敵に教訓を与えた」と宣言して、全面的にメンツを失うことなく、戦争を終わらせてきた。そのような、ある意味「中国的」な勝敗で落ち着くことを、沖合制御戦略は念頭に置いている。

戦い方は、シーレーン封鎖で経済的に追い込んで行く方法だ。

ここでつい、レーガン時代の対ソ戦略を思い出す。銃弾を1発も撃つことなく、ソ連の脅威を取り除こうとレーガン大統領は考えた。トーマス・リードら優秀なブレーンが、アメリカが年率4%の軍拡を10年続ければソ連は当然、軍拡競争に参画する、アメリカ経済は4%の軍事費増に耐えられるが、社会主義統制経済では10年で潰れる、と読んだ。レーガンは忠実にそのとおり軍拡し、ぴったり10年後にソ連は崩壊した。

沖合制御は、中国を経済的に追い詰めていくために、第一段階として第一列島線を押さえる。第一列島線の中国側の海域に機雷を敷設して、潜水艦と少数の部隊を配備し、上空も守って海空防衛網を形成する。中国経済を支える大型タンカーや超大型コンテナ船はこれで通航できなくなる。

ハメスは、作戦の目的は中国のエネルギー輸入の流れを切るというより、むしろ、中国経済の50%を占める輸出入ルートを遮断することにあると説明する。

アメリカがマラッカ、ロンボク、スンダ各海峡及び豪州の南側北側海域を制御出来れば、中国は別のルートを探さなければならない。迂回ルートはパナマ運河かマゼラン海峡だが、両海域ともアメリカのホームグラウンドだ。容易に押さえられる。

斯くして中国の物流は止まり、経済的損失を蒙る。少なくとも7%の経済成長を実現して初めて中国共産党の求心力が維持されるというが、シーレーンを閉ざされれば経済成長が止まり、共産党の存立基盤は大きく揺らぐだろう。

この戦略に中国が勝つ道はたったひとつしかないと、ハメスは書いている。グローバルな制海権を持つ海軍を作り上げることだ。だが、それには何十年もの時間と何百兆円ものコストがかかる。そんな分の悪い戦いを挑むのは損だと中国は悟るに違いない。
戦い続けても勝てはしない。ジワジワと首を絞められていくだけだ。ならばこんな損な勝負はやめようと中国に思わせるところまで締め上げる。これがハメスの論である。

これが抑止力

では、アメリカは同盟国にどんな協力を求めるのだろうか。沖合制御戦略は、オーストラリアを除いて同盟国の基地を必要としないために、同盟国や友好国にアメリカの側に立って参戦することは求めないと思われる。アメリカは殆どどの国にも依存せずに、単独で実行可能だという。

が、実際にはそうはいかないと思うべきだ。どう考えても同盟国の協力は必要不可欠である。なぜなら、貿易ルートを閉ざされた中国経済は成長が鈍り、景気悪化につながる。国際社会は当然、負の影響を受ける。しかも、沖合制御は短期間で劇的に効果が出るのではなく、戦いは長期にわたる。日本を含めておよそすべての国が不況の波を受けることは避けられない。そこを耐えて、どの国も足並みを揃えて共に戦わなくてはならないだろう。

この他にも、ハメスの戦略はもっと多角的に検証しなければならない。中国が核攻撃に踏み切る可能性や、アメリカの同盟国にミサイル攻撃を仕掛ける可能性などもある。ハメスは、核の能力において中国はアメリカに勝てないため核は使わないと見るが、異論もある。

このように、沖合制御は完璧ではないかもしれない。だが、こうした戦略を公に論ずること自体に意味がある。これを中国人が読めば、大変な危機感を感じるだろう。沖合制御戦略などを実施されたらたまらない。で、そのあと、どう考えるか。理性があれば、アメリカの戦略を自らも学び、分の悪い紛争は避けるだろう。これが抑止力である。議論し、発表し、さらに議論することで戦略は高度に磨かれると同時に、中国に睨みを利かすことが出来るのである。

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