「 石原“最後は金目”発言が突いていた一面の真実 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年7月5日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1041
「最後は金目でしょ」と発言した石原伸晃環境相が「私の品を欠く発言」と、平謝りに謝った。氏の謝罪通り、発言は著しく品格を欠いていた。環境大臣としての氏の仕事ぶりも、被災者のために粉骨砕身の頑張りを見せるべき地位にあるにもかかわらず、どう見ても評価できない。氏は大反省すべきだと指摘した上で、福島の現状について人々が口を噤(つぐ)んでいる微妙な問題に触れたい。
原子力発電所の事故で全住民に避難命令が出された8町村の住民たちの中に、石原発言は許し難いが的を射た発言だったと言う人が少なくない。福島で復興話となると、議題はいつも補償をどこまで積み上げるかという話題になるとも、彼らは言う。その1人、NPO法人、ハッピーロードネット代表の西本由美子氏が耐え難い実情があると語る。
「悪いのは政府か、自治体か、住民か。とにかく8町村はカネカネの世界になってしまいました。石原発言がその異常さを反映しています」
西本氏は、復興にも生活再建にもおカネが掛かるが、その使い方が根本から間違っていて、働かなくてもおカネがもらえるようにする方向で事態が動いてきたと嘆く。
自宅に戻れない被災住民は、いま、東京電力から月額1人10万円を精神的補償として受けている。住居費は無料で東日本大震災前の給料も保証されているが、ここにもある仕組みがある。震災前に勤めていた企業が再興されず、住民がその企業以外で働いて収入を得たと仮定する。それでももともとの企業で受け取っていた給料と同額が、東電から支払われてきた。震災から丸3年が過ぎて、他企業で得た収入ともともとの企業の収入の差額を補填すればよいのではないのかとの議論はあるが、震災前の収入を東電が担保する基本路線はいまも変わらない結果、4人家族で以前の収入を30万円と仮定すれば、震災後は70万円プラス避難先での収入ということになる。
他方、浪江町は月額10万円の精神的補償では不十分で、これを1人月額35万円に引き上げる訴えを起こした。浪江出身の若者が語った。
「落としどころは月10万円を15万円にすることだと、もっぱらいわれています。浪江の訴えが成功すれば、他の町の住民もそれに乗りたいと考えています。四人家族で40万円プラス以前の給料だったのが、60万円プラス給料になります。こんな高給、私たちはもらったことがないわけですが、いまや、もっと欲しいと要求する。この状況は恥ずべきことだと私は考えます」
西本氏が強調した。
「私の住んでいる広野町は川内村と共に住民の一部が戻ってきた自治体です。広野町は震災の年の9月末に緊急準備避難区域が解除になり、2012年8月に町長が精神的補償はもう不要として10万円の支給を断りました。以来、広野町の住民はもらっていませんが、それで良かったと思います」
だが古里に戻っての生活には多くの困難がある。医療機関も食料品店、新聞配達もない。そうした中で古里再生に頑張る人々にこそ、援助すべきだが、援助は避難先にとどまり働いていない人々に注がれると、氏は嘆く。
「してもらうことを要求する傾向が強くなって、福島県人の良さはどこに消えたのかと、危機感を抱きます。広野町でも昨年11月の町長選挙で現職が大差で敗れました。新町長は毎月10万円もらえるよう東電と交渉すると公約して当選しました」
石原発言は品格を欠いてはいたが、一面の真実を突いていたと、福島の人々が語るゆえんである。東電、政府のおカネを使うなら、いまこそ品格を保ち勇気を奮い起こさせる力とすべきだ。福島に注入するおカネは、前向きに復興にいそしむ人をこそ支えるものでなければならない。