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2014.06.26 (木)

「 混沌を極める米外交と日本の針路 」

『週刊新潮』 2014年6月26日号
日本ルネッサンス 第612号

イラク情勢が激変中である。オバマ大統領の中東政策は破綻したというべき大変化が起きている。
6月10日時点で、アルカイダより尚、過激だとされる「イラク・アルシャムのイスラム国」(ISIS)が、イラク北部の都市モスルを奪い、ティクリートを攻め、シーア派の聖地であるサマーラをも攻撃しつつ、南進を続け首都バグダッドに迫りつつある。わずか数日で、イラクは世界で最も不安定かつ危険な戦場に逆戻りしたといえる。

オバマ大統領が米国陸軍士官学校、ウエスト・ポイントの卒業式で「君たちはあの9・11以降、イラクもしくはアフガニスタン戦争に送り込まれない最初の卒業生になる」「我々はイラクから軍を引き揚げた。アフガニスタン戦争も終わりつつある。パキスタンとアフガニスタンの国境地帯のアルカイダ指導層は潰滅した。オサマ・ビンラディンはもういない」と演説したのが5月28日だった。ISISの侵攻はそのわずか10日余り後だった。大統領の中東分析は如何に間違っていたことか。

オバマ大統領がイラクの治安を托したはずのイラク国軍の兵は、ISISの姿を見るや武器を捨てて逃げ、武器はISISの手に渡り、彼らの軍事力をさらに強める結果となっていると、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)をはじめとする米国の主要紙は伝える。

3000から5000人の過激な武装集団がバグダッドに肉迫する一方で、首都を守るはずのイラク国軍の兵は制服の下に私服を着込み、戦いになれば制服を脱ぎ捨てて逃げる用意をしているとの報道もある。バグダッドが陥落するか否かとは別に、この時点で明らかなのは、中東の勢力図が完全に塗りかえられたことだ。オバマ大統領は、地上部隊は派遣しないと早々と表明する一方で、空爆を含む軍事的対応を「考慮中」と語ったが、ISISが中東のより広範な地域に勢力をのばす危険は否定出来ない。

G2は信じない

オバマ大統領の外交・安全保障政策は、ジョージ・ブッシュ前大統領の正反対を行くものだった。ブッシュ大統領の始めたイラク、アフガニスタン戦争を終わらせ、アメリカ兵を祖国に戻すと公約して当選したオバマ大統領は、その言葉どおり、イラクからの撤退を2011年に完了、16年中にアフガニスタンからも全面撤退の予定だった。

だが、この撤退政策こそ、オバマ氏がホワイトハウスに入った09年に「バグダッドは、米軍の対テロ戦によって平和を取り戻した」と報じられたイラクを、再び、激しい戦いの渦中に引き戻したことになる。WSJは社説で、米軍撤退とシリア内戦へのオバマ大統領の不関与を批判し、「5年以上、オバマ政権を見てきて、我々は指導力も、戦略もこの大統領に期待すべきではないと認識するに至った」とつき放した。

大統領の消極姿勢は、中東だけでなくアジアにも、同様の負の影響を及ぼしている。東シナ海、南シナ海で続く中国の蛮行がそれである。にも拘わらず、国際法も守らないこの野蛮なる大国、中国と「新型大国関係」を「積極的に進める」と語るのがオバマ大統領である。南シナ海問題について、米国は介入すべきではないと主張する中国に、言葉による牽制球を投げながらも、中国の力による支配を結果として、受け入れつつある。

国家基本問題研究所企画委員、冨山泰氏は、オバマ大統領の不決断とは対照的なのが米国防総省だと指摘する。国防総省は6月5日に発表した年次報告書「中国の軍事・安全保障動向」で初めて、中国軍の近代化の狙いが、台湾海峡以外に東シナ海と南シナ海の有事への備えにあると明確に断言した。

中国が激しく反発した国防総省の分析はアメリカの決意を示すものだが、オバマ大統領がどれだけ、国防総省の懸念を共有し、軍事的手段を取るのかは不明である。

WSJの社説が指摘するように、オバマ大統領にはもはや大国としての戦略を期待することが出来ないと仮定して、新大統領が生まれる2年半後、アメリカはどんな国になるのか、その意味で興味深いのが、6月14日の「日経」のヒラリー・クリントン前国務長官のインタビュー記事だった。民主党の次期大統領最有力候補である氏は「日経」の取材に、習近平国家主席の唱える新型大国関係については「知らない」、いわゆる「G2(二大国主義)」は「信じない。それが適切だとも思わない」と語っている。氏の対中認識の変化を見るうえで興味深い。

G2は、オバマ政権第1期の1年目に盛んに飛び交った言葉だ。ブッシュ政権が始めた「米中戦略経済対話」を、経済分野に限らず、その他の安保、外交にまで広げて大国同士として話し合うべきだと考えたのがオバマ、クリントン両氏だった。それゆえに、2国間の対話は「米中戦略・経済対話」になった。戦略と経済を分けて表現したのがミソで、経済対話が戦略論をも語り合う包括対話に格上げされたのだ。

日本はつけ足し

この件は、クリントン氏が、大統領選出馬を念頭に書いたであろう回想録、『困難なる選択』(“HARD CHOICES”)にも記されている。だが、一度はG2に傾いたものの、氏はすぐに中国の脅威を読みとった。アメリカが中東で戦っている間に中国が台頭し、アメリカの空白を埋め続けたことに危機感を抱いた結果、10年にはアジア回帰を打ち出した。

であれば、氏がいま改めて「米中二大国が世界を牽引するG2論を信じない」(「日経」)と強調するのは自然である。しかし、それはオバマ大統領の、いまも尚、新型大国関係というG2論に傾いている対中政策とどれだけ異なるのだろうか。参考になるのが前述の回想録である。

国務長官時代の回想に加えて、南シナ海、東シナ海における現在の中国の蛮行まで網羅した同書で、否応なく認識させられるのは、日本についての記述が殆どつけ足しの水準にとどまっている一方で、中国への思い入れの強いことである。

確かに彼女は国務長官として、初の外遊先に日本を選んだ。だが、そのときの体験も、現在の状況も含めて、回顧録には日本の政治家と親しく会話する場面は出てこない。他方、中国要人との交流は心あたたまる筆致で描かれている。胡錦濤国家主席の外交の右腕といわれた国務委員、戴秉国氏との交流は真の友人のそれであるかのようだ。

氏の中国重視も、アメリカの国益重視の視点から変化はしていない。価値観において日米が非常に近く、同盟国であるといっても、それはいつも頼れる保険ではないのである。国際政治の厳しい現実を見ることこそが大事だと痛感する。

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