「 戦闘機の異常接近で見えたシビリアンコントロールなき中国 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年6月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1039
中国は果たしてシビリアンコントロールの国か。中国人民解放軍は勝手に行動しているのか。この問いに一連の“異常接近”が答えてくれる。
6月11日午前、中国人民解放軍のミサイル搭載のSU27戦闘機二機がまたもや自衛隊の情報収集機に30~45メートルまで異常接近した。危機に晒されたのは、航空自衛隊のYS11EBと海上自衛隊のOP3Cである。
5月24日もYS11EBとOP3Cは同様の危機に遭遇した。「ヒゲの隊長」、元自衛官の佐藤正久参院議員が、5月の異常接近事件について、インターネットテレビ「言論テレビ」の番組でこう語った。
「至近距離に近づいたSU27の写真を日本側は撮ったのですが、その写真からパイロットの顔が識別できました。米軍に照会したら、跳ねっ返りで知られるパイロットだという情報がもたらされたようです」
こうした情報もあり、中国の意図の分析に関して、中国軍機の冒険的行動はパイロットによる独断行動である可能性が強いとの観測が流れた。
中国政府はその間の5月29日、異常接近はもともと自衛隊が仕掛けたと非難した。昨年11月23日に、自衛隊機が中国の空軍機に10メートルまで異常接近したと主張するのだ。無論、日本側は真っ向から否定した。
中国の主張は偽りではあっても、異常接近を後ろめたいこととして捉えている印象があった。異常接近が、中国政府か、軍全体か、または一人のパイロットの独断なのかの見極めが難しかった理由である。だが同じ事件が繰り返されたことで、一連の蛮行はパイロットの独断行動ではなく、少なくとも軍の方針であることが判明した。
佐藤氏が2001年の米軍の情報収集機、OP3と中国の戦闘機の接触事故を振り返った。
「01年に南シナ海の公海上を飛んでいた米国の情報収集機に中国の戦闘機が異常接近の揚げ句、ぶつかりました。情報収集機は武器は積んでいません。今回の自衛隊も同じです。しかし、機体は大きく戦闘機に比べて1.5倍はあります。両機がぶつかれば戦闘機の方が不利です。中国機は墜落しパイロットは死亡、米国の情報収集機は損傷を受けて海南島に不時着し、中国に拘束されました」
前回は中国のパイロットが死亡した。しかし、国際社会のルールを無視した危険行動が続けば、事故が起き、死者が出る危険性は限りなく大きい。
で、再び問わなければならない。このような行動は今はどのレベルから出ているのか、と。4月2日の軍機関紙「解放軍報」に掲載された馬暁天空軍司令官の論文には、中国空軍はその任務を、「保守的な国土防空」から「海上での脅威排除に向けた攻めと守りの兼備」に拡大し、「海上で核心となる軍事能力をつくり上げる」と書かれている(6月12日「産経新聞」)。
つまり、一連の異常接近は中国軍の決定なのだ。目的は尖閣諸島は中国の領土であるとの主張を支えるために尖閣上空を実効支配することだ。だが、そのようなことは軍単独の判断でできるはずはない。中国共産党政権全体の考えであり決断だと考えるべきだ。
中国政府がここまで軍事行動を決断したことに加えてもう一つ、私たちが忘れてならないのは、中国の孫子の兵法である。その教えの中に「主は戦うなかれというとも、必ず戦いて可なり」という言葉がある。十分な強さを備えた軍隊は、この場面で戦えば勝てると判断するときには、たとえ主(習近平国家主席)が駄目だと言っても必ず戦え、というのだ。いま中国軍は将から兵まで孫子の兵法を学んでいる。中国はもともとシビリアンコントロールの国ではないのである。そのことを肝に銘じ、日本に必要なのは、万全の備え、集団的自衛権だと思う。