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2014.06.19 (木)

「 日本こそ学べ、騙しを旨とする孫子の兵法 」

『週刊新潮』 2014年6月19日号
日本ルネッサンス 第611回

中国の脅威に対処すべく、その行動と意図をどう読み解くかについて、日本の見方は常に大きく二分されてきた。中国の発する言葉に焦点をあてて、その行動の背景を解説し、中国の「蛮行」にもそれなりの理由があるとする、いわゆる親中的な見方と、中国の行動に焦点をあてて、その言葉との乖離に疑問を呈する見方である。

どちらの見方に立つにしても、世界第二の軍事、経済大国である中国が、いまや国際社会のトラブルメーカーとなったことは否定出来まい。蛮行に走り続ける中国の意図をどこまで正確に読み解き、準備を整えられるかが、周辺諸国の運命を決する時代になった。

言葉と行動の限りない不一致の国、中国は、融通無碍の国でもある。平沼赳夫氏が実体験に基づいて語った。

「小泉政権時代の2005年、日華議員懇談会会長である私に、中国政府から訪中の招待がありました。台湾側も、中国をよく知っておいたほうがよいと勧めるので訪問しました。唐家璇氏主催の歓迎の宴が、迎賓館である釣魚台で開かれ、その席で唐氏が『A級戦犯』合祀の靖国神社参拝はけしからんと演説したのです」

平沼氏は猛然と反論を展開した。氏の養父は、「A級戦犯」とされ、終身禁錮刑を受けて獄中で病死した平沼騏一郎である。氏はざっと以下のように語ったという。

「私の養父騏一郎は開戦に反対であり、駐日米大使グルーに働きかけ和平工作を進めていた。そのために昭和16年、軍の意向を受けた右翼に襲撃され、首から上に5発の銃弾を浴びたが、九死に一生を得た。終戦直前の御前会議に、鈴木貫太郎首相に要請されて出席し、本土決戦に拘る軍に、本土決戦に踏み切ると仮定して一体どのような準備を整えているかを細かく問い質した。主戦派は養父を説得も論破も出来ず、御前会議の意見は二分され、御聖断を仰いだ。こうして降伏が決定された。軍部は、降伏は鈴木と騏一郎の所為だと憤り、8月15日未明に、機関銃を装備したトラック2台で押し寄せ、自宅を焼き打ちにした。そんな養父だったが、それでも『A級戦犯』にされた」と。

何でもありの情報戦

平沼氏が笑いながら続けた。

「私がここまで語ると、それまで厳しい表情で非難していた唐氏が、突然、表情も話題もガラリと変えて言ったのです。『あー、食事の用意が整いました。さあ、あちらに、あちらに』。都合が悪くなると、さっと話題を変える。状況次第で何とも鮮やかに対応を変える。目眩ましをくらわせて、本当の目的をうまく隠してしまう。これが中国人です」

「ヒゲの隊長」こと自民党の佐藤正久参院議員は、中国の情報戦における特徴のひとつが、この融通無碍にあると強調する。日本で「中国の三戦」として知られる世論戦、法律戦、心理戦も、その根底にあるのは、何でもありの情報戦である。

情報戦に中国がどれほど成功し、日本がどれほど敗北し続けているかを、私たちは米国を舞台にした慰安婦問題に関する顛末でいやというほど思い知らされている。米国では、在米韓国人の反日闘争に在米中国人が強力な支援体制を敷いた。中国人は韓国人を支えるというより、むしろ積極的に韓国人の反日運動を取り込み、日本追い落としの世論戦の材料として最大限利用している。彼らの対日非難の内容を知れば知るほど、日本人は憤り、そしてほぼ例外なく、こう問う。

「なぜ彼らは、平気であんな嘘をつくのか」と。

「嘘をついてはならない」という価値観を大事にしてきた日本人にとって、「10代の幼い子供を含めて20万人を強制連行した」「性奴隷にした」「その揚げ句、日本軍は証拠隠滅のために、敗戦直前に女性たちを殺害した」などという彼らの嘘は耐え難く、許し難い。しかし、彼らは臆面もなくこの酷い嘘を並べ続ける。先にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議でも、中国代表団は際限なく嘘をついた。たとえば南シナ海の領有権についてである。

中国の主張する南シナ海の境界線、九段線について問われ、王冠中・人民解放軍(PLA)副総参謀長が答えた。

「九段線は2,000年以上前の漢の時代から中国の管轄下にある。国連海洋法条約は1994年に発効したばかりで、過去を遡ることは出来ない」

なんという大嘘か。漢の時代以降、中国では王朝が栄枯盛衰を繰り返した。いま私たちが中国と呼んでいる国土を支配したのは、王朝毎に異なる勢力であり民族である。中国に国家としての一貫性は存在しない。にも拘わらず、如何にして、漢の時代から2,000年間、中国が南シナ海を「管轄」してきたというのか。

かつて日本で盛んに

中国の主張を信ずる国はないが、彼らはお構いなくこのような壮大な嘘をつく。そしてその嘘を何年も何十年も繰り返す。当然、日本人は、再び問うのである。「なぜか」と。

『日本の存亡は「孫子」にあり』(致知出版社)の著者、太田文雄氏が右の問いに明解に答えている。嘘偽りで相手を操ることこそ、中国人の考える最上の戦い方なのだと。「能なるもこれに不能を示し、用なるもこれに不用を示し、近くともこれに遠きを示し…」と孫子は教えている。相手を粉砕する力があってもそんな力はないと言い、火器管制レーダーを使ってもそんなものは使っていないと言い、ごく近くまで迫っていてもまだ遠くだと言って騙すのがよいという教えである。

この孫子の兵法を、現在の中国共産党及びPLAが最重要視しているという。孫子の教えは中国国防大学における教育の中核であるのみならず、06年には、PLAの将校階級に限っていた孫子の兵法を全兵士に広げて学ばせ始めたと、氏は指摘する。

幾十世紀もの長い歴史に洗われて生き残った戦略論としての「孫子」は、実はかつて、日本で盛んに研究された。戦国時代はもとより、幕末には吉田松陰や佐久間象山ら兵学者がこれを学んだ。吉田松陰は、15歳のときに藩主の毛利敬親に「治己、知彼、応変」の六文字を軸にして『孫子』虚実篇を講義したという。

こうした教えが明治維新の指導者に伝えられ、明治天皇も孫子を熟読されたそうだ。それが日清、日露戦争で、世界が賞賛したあの勝利につながったと分析されている。

では、大東亜戦争の戦法はどうだったのか。太田氏は昭和天皇が、孫子の兵法の研究が不十分だったことを日本の敗因の第一に挙げられたと書いている。

紀元前から長い歴史を通して専門家が精読し、国の守りの基本としてきた孫子を、国の守りをすっかり忘れた戦後の日本人こそ、いま、誰よりも熱心に読まなければならないのではないか。

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「 日本こそ学べ、騙しを旨とする孫子の兵法 」

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