「 日本の国造り 神話を想起させる典子女王殿下のご婚約 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年6月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1037
「日本の国造りが行われていたはるかな往時にタイムスリップしたような気がします。日本の始まりを伝承する神話が21世紀によみがえったようです」
國學院大學名誉教授の大原康男氏がこう語る。氏は、高円宮妃久子さまの次女、典子さまと婚約なさった出雲大社禰宜(ねぎ)の千家国麿(せんげ・くにまろ)さんに、國學院大學で神職の必須科目の一つを教えたことがある。氏にとっては教え子が日本誕生の神話をほうふつさせる慶事を21世紀のいま、眼前に再現してくれている気持ちであろう。氏は語る。
「ご皇室はいま125代の天皇、出雲大社は国麿さんの父上の尊祐(たかまさ)氏で84代です。時間にしてみれば双方共に約2700年の歴史を有する最も歴史ある家族です。出雲大社は神道の二大源流の一つで、そこにご皇室から典子さまが嫁がれる。日本の始まりを伝える神話がいま、眼前によみがえったとしか言えません」
古事記や日本書紀に描かれているわが国の国造りの物語では、大国主神(おおくにぬしのかみ)が天照大神(あまてらすおおみかみ)の子供の天菩比神(あめのほひのかみ)に、葦原中国(あしはらのなかつくに)をお譲りになった。そのときに大国主神が住み、祭られるお社として出雲大社が建てられた。以来、出雲大社は天菩比神の子孫が代々継承し、現在の84代宮司の千家尊祐氏に至る。
大国主神は「稲羽(いなば)の素兎(しろうさぎ)」の物語で知られる心優しい神だ。葦原中国には荒ぶる神々がおられたが、大国主神はその神々を上手に従え、天照大神の子供の神に国譲りをした。この物語は、日本の統治の基本が戦争ではなく話し合いにあったことを示している。
記紀にある大和平定と神武天皇即位までの建国の物語は、多くの神々が登場する波瀾万丈の物語である。日本の神々の特徴は、まず、問題に直面して他の神々とよく相談することだ。西洋の神、中東の神のように絶対的な力を持つ存在ではないのである。
加えて神々の性格は人間のようでもある。喜び、怒り、悲しみ、希望、理性、嫉妬などの感情を持ち合わせていて、感情に振り回される場面もある。親子で古事記や日本書紀を読んで、日本の国造りの物語や神々の性格、神々の統治から生まれた神道という日本独自の宗教(価値観)について、楽しみながら考えてみると面白いだろう。
天孫降臨から、やがて神武天皇の即位に至り、建国の偉業が果たされる。神武天皇は天照大神の子孫で、橿原(かしはら)宮をお造りになり、以来、今日まで、その子孫である天皇が、125代続くのがわが国だ。
典子さまのご婚約は、天照大神の子孫の神につながる皇室から、これまた天照大神の子供の神につながる出雲大社へのお嫁入りなのだ。日本国の歴史の深さを思わせる、なんという面白い慶事であろうか。大原氏の指摘する「タイムスリップ」が3000年になんなんとする時空を超えて起きたのだ。
今回あらためて古事記を読み返し、竹田恒泰氏の指摘にはたと膝を打った。『現代語古事記』(学研)の中で氏は、天照大神が自分の子供神が葦原中国を統治するという神勅を出していて、それが、明治の大日本帝国憲法成立の法理の根拠だと述べている。
「大日本帝国万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」がまさに、神話を踏まえたものであることを、今更ながら実感する。神話の世界はどこかにはかなく消え去ったのではなく、現実に神話を生きている人々が存在するのだということに、今回のご婚約によって気付かされた。
日本の国柄の基本にこの長い歴史がある。神道を基本とする長い歴史の中で、日本の価値観が紡ぎ出されてきた。そのことを実感すればするほど、一日も早く、皇室の存立をより確かにするための改正が急がれる。皇室の消滅と、日本の伝統と文化の変質をもくろんだ米国の占領政策のあしき流れを断ち切るために、安倍内閣は皇室典範改正に着手すべきではないか。