「 日本人が明らかにすべき従軍慰安婦の真実 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年5月31日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1036
私たちは自分自身と国家とをどれだけ一体のものとして考えているだろうか。天然の要塞である海に守られてきた日本人は、たくまずして与えられる平和故に、国民を守る枠組みとしての国家の重要性に思いを致すことなく過ごして、今日に至るのではないか。
幕末の安政4(1857)年、幕府の要請によって日本に海軍を創設すべく、指導に訪れたオランダ海軍二等尉官のファン・カッテンディーケが興味深いことを書き残している。
「(オランダ海軍の)艦長が1名の士官と45名の陸戦隊を率いて上陸すれば、恐らく1発の砲弾も放つことなくして、幕府の役所をはじめ海岸に面した町々は苦労なしに占領することができるであろう」、その場合、「市民は陸戦隊の上陸を、知らぬ顔で見て過ごし、幕府を窮地に陥れるかもしれない」(『長崎海軍伝習所の日々』東洋文庫)。
カッテンディーケは前段で幕末の日本の軍事力の欠落を、後段で国家の危機にわれ関せずの姿勢を貫く日本国民の、ある種の無責任を指摘したわけである。こんなことを思い出したのは、いま日本に向けられている慰安婦に関する根拠なき非難を、およそどの日本人も口惜しく思っている割に、対応が消極的だからだ。
慰安婦の強制連行や性奴隷としての扱いなどは事実ではないという日本側の主張に、朴槿恵大統領は年老いたハルモニ(おばあさん)ら生き証人がいると反論する。
だが、「産経新聞」が一連のスクープ報道で明らかにしたことは、河野談話の基となった元慰安婦16人は、継父に売られた人や、熊本など慰安所のなかった地域で性奴隷にされたなどと主張する人たちであり、到底、彼女らの証言は信頼できないということだった。にもかかわらず、朴大統領はそのような女性たちの証言こそ、日本の「強制連行」「性奴隷」が真実である証拠だというのである。
朴大統領が生きている人々の証言をそれほど信頼するのであれば、日本側も証言を出すのがよい。慰安婦の実態を知っている日本人は、まだ多く生存している。知っている人が知っている情報を出していくべきときだ。
その意味で静岡市在住の石上史子さん(92歳)のお話を紹介したい。石上さんのご主人は、新兵としてラバウルに送られ、昭和21(1946)年5月に復員した。夫から聞いた話を彼女はざっと以下のように語る。
サイゴンからの列車移動中、車内が急に騒がしくなった。女たちと女たちを連れている男の一群で、いずれも朝鮮の人たちだった。彼らは遠足のような雰囲気で、「だいぶ稼いだから、まず朝鮮の親に渡して、また、稼ぎに行きたい」などと大声で話していた。
ご主人は朝鮮語を解したために、彼らの会話を聞き取れたという。
かつて私は富山県在住の元憲兵隊員の話を聞いたことがある。彼らは慰安所での日本兵の規律を取り締まった。女性に乱暴を働く兵は厳しく罰せられたのが実態であり、彼女たちを「奴隷」のように取り扱った事実などどこにもないと、詳細に語った。
慰安所の設置は現代の価値観に基づけば決して許容されるものではない。従ってそのことに触れること自体が恥だと私たちは考えがちだ。だが、韓国や中国は事実を捏造してまで、日本を貶める。であれば、日本人の知っている慰安婦の具体例をできるだけ多く明らかにしていくことが、捏造の壁を打ち破る力になるはずだ。
石上さんは、不名誉な強制連行説や性奴隷説を聞くたびに悔しさと無念で涙する。そして「死者は語らず、語れずにしてはいけないのです」と。
同感である。慰安婦の実態を知る高齢の方々に再度ご苦労願って、ご自分の知っていることを私たちの世代に教えてほしい。