「中国との間に2000年に及ぶ紐帯 日本は韓国とどう向き合うか」
『週刊ダイヤモンド』 2014年5月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1033
朝鮮半島、とりわけ韓国にどう向き合うか。好悪の感情を横に置き、日本の国益のために良好な関係を築き維持する、朝鮮半島が中国寄りになり、中国に席巻されないようにすべきであると、私は考えてきた。
そのためには、近未来に予測される北朝鮮有事の際、米国と共に韓国支援の態勢をつくり、韓国による朝鮮半島の統一実現に貢献し、その先に、民主主義や自由、法治という価値観を共有する開かれた国をつくるのが日韓双方の国益に資すると主張してきた。嫌韓感情は情緒的には理解できるが、理性の力で嫌韓感情を排し、前向きに協力し合わなければならないと訴えてきた。
その私の思いに、荒木信子氏の『なぜ韓国は中国についていくのか』(草思社)が冷水を浴びせる。日本人が理性で日韓の感情的対立を乗り越えたとしても、その先に、共通の価値観で日韓両国が結ばれるなどという日は来るのかと、この朝鮮問題の専門家にして冷静沈着な著者は迫る。氏は韓国と中国の間には2000年に及ぶ紐帯があるのに対して、日本の朝鮮統治は「僅か35年だ」と以下のように指摘する。
「日韓併合、朝鮮戦争、それに続く冷戦という国際環境下で中国との行き来がブロックされている間は、韓国は中国から影響を受けずにいられた。だが、国交が正常化され行き来が復活すれば、その動機がなんであれ、韓国が中国へ傾いていくのは『自然の摂理』のようなものだ」
韓国は世界の半島国家と共通の宿命を負っている。それは地続きの大陸国家の顔色をうかがい、周辺国の力関係を測らなければ生き残れないという宿命だ。だから歴史を振り返れば、韓国は時代によって中国、日本、米国、再び中国と、付き従う国を変えてきた。2000年にわたる中国との結び付きと現在の中国の台頭を見れば、韓国には中国にあらがうという選択肢はないと、氏は断ずる。日本人には思いがけなかった朴槿恵大統領の反日も、朝鮮半島の歴史から見れば、ごく自然な現象だというのだ。
氏は朴大統領の軌跡と言葉を淡々とたどることで、彼女の周辺国への思いを浮き彫りにする。中国に対しては慈悲深い父親への憧れにも似た感情が見えてくるが、日本に対してはずっと以前から非常に厳しかったことが分かる。
例えば、2007年に出版された自伝、『絶望は私を鍛え、希望は私を動かす』(晩聲社)には、05年の訪日のことが書かれている。彼女は「韓日関係が悪くなった原因は日本にある」との気持ちで、安倍晋三官房長官(当時)を含む多くの政治家と会った。その印象を、「一様に日本側の論理で武装した人たち」と冷たく突き放している。靖国参拝などの歴史問題において加害者・被害者の関係は100年たっても変わらないと自伝には明記している。大統領就任後には100年が1000年に格上げされたが、彼女の思いはずっと前から同じなのだ。
その彼女が大統領に就任した当時、日本政府にもメディアにも「朴槿恵氏は親日だ」「父親の背中を見ているはずだから、日本をよく理解している」という見方があった。政府も国民も、日本人がいかに韓国に真の意味での注意を払っていなかったかということだ。
朝鮮研究をライフワークとしてきた荒木氏は、いま韓国が日本の中の親韓派、真の友人までをも敵に回してしまったことも、日本人がようやく本音を語り始めたことも、その意味を韓国人は理解できないとみる。彼らには日本人の心を忖度する思慮はなく、一連の変化を単に右傾化と捉えるというのだ。韓国が中国を二の次にして日本と協力し合うことはないが、事ここに至れば、対日批判に数十年も耐えてきた日本人の国民感情もまた修復不可能だと、荒木氏は指摘する。日韓関係を深く考えさせられる1冊である。