「 歴史・戦争、日本は再び負けてはならない 」
『週刊新潮』 2014年5月1日号
日本ルネッサンス 第605回
わが国を代表する船会社、商船三井の貨物船が4月19日、突然、上海市の裁判所によって差し押さえられた。同時進行で、戦時中に日本に強制連行されたとする中国人元労働者とその遺族らが、三菱グループなど日本企業を被告として損害賠償請求訴訟を次々と起こしている。
中国では司法は共産党の指導下にある。一連の司法手続きは、そのまま中国共産党政権の意向を反映している。中国がいまや、日本に対して徹底的な戦いを挑み、戦い抜く覚悟で攻めてきているということだ。
日中間の過去にまつわる請求権問題は、1972年の日中共同声明の第5条で「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」と明記しており、完全に解決済みである。
だが、中国政府は国と国との関係は清算済みでも、国と個人の関係は別だと主張する。そのような解釈はどこの世界でも成り立たない。しかし中国共産党に限っては、法の支配を遵守する国際社会の常識は通用しないのである。
習近平体制下の中国は異常である。対日関係におけるこの異常さは、強硬策を伴って、ますますその度合いを強めていくだろう。中国の抱える問題が深刻になればなるほど、対日強硬策も烈しさを増し、日本は彼らの狡猾この上ない宣伝戦に晒されるであろう。私たちはそう覚悟してしっかり対処しなければならない。
慰安婦問題のように、反論しないということは許されない。慰安婦問題は当初反論しなかったために、私たちは不当極まる濡れ衣を着せられて今日に至る。幼い女性たちを含む多くの女性を強制連行し性奴隷にしたという捏造物語は、朝日新聞が91年8月に報じた記事に端を発する。2014年の現在では、日本国民の多くが強制連行はなかったこと、女性たちは性奴隷ではなかったことを知っているが、かつては、日本人でさえ多くが朝日新聞の嘘を信じた。
元日本兵が証言
一旦、嘘と虚構の横行を許せば、それを正すには長い時間と大変なエネルギーを要する。慰安婦問題を朝日新聞の主張に沿って当初信じた日本国民の誤解が解かれ、いま、ようやく、国際社会に歴史の真実が発信され始め、アメリカでは日本人による司法闘争が始まった。そのような思いを共有するのに、実に四半世紀近くの時間がかかっているのだ。
それでも慰安婦問題の闘いで、私たちはようやく反論のとば口に立ったばかりだ。まだ長い時間が必要で、真の闘いはこれからだ。だからこそ、私たちは、中国がいま日本に突きつけている歴史非難に迅速に対処しなければならない。彼らの非難のどこまでが事実か、どの部分が捏造かを知らなければならない。その観点から「中国人労働者の強制連行」問題を見ると、私たちが余りにもこの問題について知らないという事実に直面して愕然とする。
調べ始めるとすぐにわかるのは、中国人労働者の強制連行について左翼的な人々がまとめた「日本が強制連行した」「酷い扱いをした」という内容の書物や資料は容易に見つかるのに対して、反対の見地に立ったものが非常に少ないという点だ。保守派による同問題の研究は、まだ余りなされていないのだ。
そうした中で参考になるのが、『「強制連行」はあったのか朝鮮人・中国人「強制連行」論の虚構』(日本政策研究センター、『明日への選択』編集部編)である。
それによると、労工(当時中国人労働者をこう呼んでいた)の日本への「移入」は昭和17年に閣議決定され、翌年4月から11月まで試験的に実施された。結果が「概ね良好」だったために、昭和19年2月末に「本格移入」が決定され、昭和20年5月までに3万8935人の中国人が移入されたという。
ちなみに中国政府は、労工の数は最初、276万人と言い、次に569万人と主張しているという。日中戦争における中国人の犠牲者数が、当初の320万人から579万人、2168万人、さらに3500万人へと増えていったのと同じ現象が、労工問題でも起こっているのだ。
それにしても同書を読んで慄然とした。書中で岡田邦宏氏が「『中国人強制連行』論への疑問」をまとめているが、「労工」を捕らえ、強制連行したという話も、やはり日本人の告発から生まれていたのだ。慰安婦を「狩り集め、強制連行した」という偽りの話を、自分自身の体験談として書いた悪名高い吉田清治なる人物を想起した件だった。
第二の慰安婦問題
まず日本人が言い出した中国での「労工狩り」と「強制連行」だったが、同書には到底耐えられない凄まじい話が載っている。「労工」問題を研究してきた田辺敏雄氏がまとめた「『労工狩り』証言は作り話」の部分である。氏が引用した日本兵の「労工狩り」の証言のひとつは次のようなものだ。
「中国人の娘を殺してスライスにして討伐中の隊員70人に配った」
このような悪魔的行為を日本軍が行ったと、元日本兵が証言したというのだ。日本人は、如何なる状況に置かれてもこんな行為に及ぶ民族ではない。そのことは、誰よりも私たちが知っている。穏やかな文明を育んできた日本の歴史もそれを証明している。一体、こんな証言に及んだ日本兵はどんな人物だったのか。
田辺氏は、数々の資料に当たる内にある奇妙な事柄に気づいている。それは、「労工狩り」を証言したのは11人の元日本兵に限られているということだ。しかもこの11人は全員が、戦後、中国に抑留されており、内9人は北支那方面軍第12軍の第59師団に所属していた将兵だった。
田辺氏が取材と調査で解明したのは、中国共産党に抑留された日本兵、計1109人が「認罪運動」に直面したことだった。同運動は、罪を認めなければ帰国させないという圧力下での思想改造教育だと、氏は説明する。
ありもしない日本軍の罪を暴き出せと、日夜責めたてられ、自殺する兵も出た。そうして作り上げられた嘘が「労工狩り」である。1109人中47人が死亡し、残りは昭和31年以降、日本に帰国した。内約半数が中国帰還者連絡会を結成し、主に彼らが「労工狩り」をはじめとする日本軍の悪事を日本で発信した。その先導役が、朝日新聞の本多勝一氏らであったと、田辺氏は述べている。朝日の罪は、慰安婦問題の捏造記事にとどまらないのである。
重要なことは、いま、「労工狩り」や「強制連行」の実態、中国人労働者の日本での労働環境などについて、日本人の手で研究を進めることだ。早急に事実関係を把握しなければ、第二の慰安婦問題として日本を苦しめることになるだろう。