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2014.03.20 (木)

「 米国、アジア外交で再び日本重視か 」

『週刊新潮』 2014年3月20日号 日本ルネッサンス 第599回
オバマ政権の外交、とりわけ対中外交が精彩を欠く。そうした中、米国務次官補(東アジア・太平洋担当)、ダニエル・ラッセル氏が3月4日、上院外交委員会で行った証言は、アメリカ外交の方向性を示して鮮明だった。

氏は2月5日に下院の外交委員会で、安倍晋三首相の靖国参拝にも拘わらず、明確に日本重視の姿勢を明らかにしている。今回、氏は下院より影響力及び権威の上ではるかに上位にある上院外交委員会で、改めて日米の絆の重要性と中国への警告を証言した。氏の証言で、何よりも目につくのが、中国へのストレートな警告である。

下院で語ったのと同じく「脅し、威圧、力による」海洋もしくは領土要求の動きに米国は明確に反対する、「東シナ海、尖閣諸島近海における中国公船のかつてない程危険な活動の増加を懸念する」と発言したあと、「米国は1972年に尖閣諸島の施政権を日本に返還した。尖閣諸島は日米安保条約、とりわけ第5条適用対象である」とわざわざつけ加えた。

尖閣諸島の領有権は日本にあるとは言っていないものの、日本国の領土だと明言しているに等しい。

氏の証言から、言葉遣いや順序に非常に気を遣っていることが伝わってくる。たとえば日韓に言及するときの国名の順序である。「日本と韓国」と語った次には、「韓国と日本」と言い、その次には「日本と韓国」というふうに、アメリカは決して一方を特別に優先しているわけではない、双方とも同じように大事なのだというメッセージを伝えている。

ここまでアメリカが日韓両国、というより、韓国の気持ちをなだめようとしているのには、驚く。日本人として、韓国の日本への対抗心と嫉妬心或いは憎悪はそれほど強いのかとウンザリする件でもある。

表現を大事にするという、外交当事者にとっては当然のルールの延長線上でいえば、米国務省は尖閣を正しく尖閣と呼ぶ。ニューヨーク・タイムズなどのように、「尖閣」と中国名「釣魚」を併記することはない。尖閣諸島は日本国の領土という認識に米国務省が立っていることを、こうしたところでも示している。

国務省の刮目すべき証言

ラッセル氏はさらに述べている。

「米国は、現状を変え、非合法もしくは非外交的な手段で領土要求を押し進めるような一方的な行動に反対する」、「だから我々は中国が突然、未調整で東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定したことを憂慮する」「中国のADIZの問題のひとつは、日韓が管理或いは自国領空だとしている空域を中国のADIZだと偽って主張している(purport)ことだ」と、手厳しい。

「我々は中国の南シナ海における行動に懸念を深める。同海域で中国は(東シナ海)同様の威圧的な行動、大げさな表現と曖昧な要求を主張している。同件について国務省高官らは中国指導層に直接、率直に伝えた」

これまで往々にして宥和策に傾き、対中、対北朝鮮ではとりわけ妥協的姿勢が目立ってきた国務省の、この刮目すべき証言は、米国政府の・対日不快感・が流布される中で浮上した、日米関係重視の極めて前向きの姿勢と言ってよい。

官邸筋は、「日米関係は全く揺らいではいない、アメリカが歴史問題で怒っているという説は根拠がない」と強調する。2月に訪米した岸田文雄外相は7日、ジョン・ケリー国務長官、スーザン・ライス大統領補佐官、チャック・ヘーゲル国防長官と連続して会談した。いずれの会談でも、安倍首相の靖国参拝や慰安婦についての言及は一言もなかったという。議題は専ら安倍首相の積極的平和主義や環太平洋戦略的経済連携協定、日米安保の強化、それに中国のADIZ設定を受け入れないという合意だったという。

現に、日米両政府は3月11日、国際民間航空機関の事務局長に対し、自国の管轄する空域の外側を飛行する他国の民間航空機の運航を制限することへの疑義を、連名で提出した。当初、アメリカ政府は中国のADIZ内を飛ぶ民間航空機に対して、中国当局に運航予定を通報してもよいとの妥協を示したが、日本と共同歩調をとり、反対の姿勢を明らかにしたということだ。
シンクタンク国家基本問題研究所(国基研)副理事長の田久保忠衛氏は、オバマ政権は、いま日米同盟重視へと再び政策転換をはかったと見る。日本のメディアで盛んに報じられる「アメリカの怒り」は、もはや後を引いてはいないということだ。

では、アメリカのその方針は現実の国防体制にどう反映されるのか。3月4日に発表された「4年毎の国防計画見直し」(QDR)から透視される展望は楽観出来ない。

またもや議論の先送り?

QDRでは、財政赤字に伴う大幅な軍事費削減の中でも、たとえば、海軍艦船の60%を太平洋に展開させるという既定方針の再確認や、日本をはじめとする同盟国や友好国との関係強化を打ち出すなど、アジア重視の方針を鮮明にしている。それでも、一番肝心な点が抜けている。国基研企画委員、冨山泰氏は、オバマ政権が国防上の最大の脅威はどの国かを絞り切れていないと喝破する。

「QDRでアメリカがアジア・太平洋地域の脅威と名指ししたのは北朝鮮にとどまり、東シナ海及び南シナ海で日本、フィリピン、ベトナムなどへの軍事的威嚇と挑発を強める中国を脅威とはしていません」

国務省が如何に宥和的言辞を用いても、国防総省は伝統的に中国の脅威に敏感だった。だが、その国防総省が、一番深刻な脅威である中国を敢えて明確にしないのだ。アメリカの姿勢はさぞ中国を奮い立たせることだろう。

中国は、3月5日に開幕した全国人民代表大会(国会に相当)で、前年度比12.2%の大幅な国防費増額を発表した。25年前に較べて30倍に増えた軍事費のおかげで、通常兵器、核兵器、艦艇、戦闘機やサイバー部隊も急ピッチで増強されている。日米と中国の力の比較は、いまは日米のほうが優位だが、将来はどうか。尖閣諸島を守る海上保安庁や海上自衛隊の関係者の間には切迫した声がある。アメリカが軍縮し、日本の国防努力が極めて抑制的ないま、中国が追いつくのに長い年月はかからないというのだ。日米が確実に優位を保てるのは、10年、或いはもっと短いという声がある。

いますぐ、日本が為すべきことに手をつけなければならないのは明らかだ。武器装備の充実は無論のこと、日米同盟を十分に機能させるための集団的自衛権の行使を可能にすることであろう。
にも拘わらず、国会ではまたもや議論の先送りが取り沙汰されている。日本周辺の切迫した状況に目をつぶる過剰な慎重論こそ、日本を危うくする忌むべき主張だ。

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