「 本質を理解していなかった小泉氏 佐川急便1億円問題を持つ細川氏 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年1月25日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1019
1月16日の「読売新聞」の「編集手帳」が素晴らしい。一言で言えば、小泉純一郎元首相の「脱原発」宣言と小泉氏の力を借りて都知事になりたいという細川護煕元首相を批判しているのだが、何とも洒脱で渋い。私の拙文が常に直球型であるのに対し、味わい深いコラムとなっていて、一読を勧めたい。
さて、その小泉、細川両氏である。1月14日、細川氏の76歳の誕生日にそろって会見した。ニュース番組を見ていても、主役は細川氏ではなく、小泉氏である。
小泉氏は会見でこう述べた。都知事選挙は、「原発ゼロでも日本は発展できるというグループと、原発なくして発展できないというグループの争いだ」。
都知事選挙をお得意の二項対立の構図に持ち込む意図は明らかだ。
「敵」をつくり、敵と戦う「正義」が自分であるとの構図は、氏の得手とするけんかの作法である。その構図の中で郵政改革、道路公団改革などが行われ、女性宮家問題も論じられた。
いまさらではあるが、小泉改革といわれたものはことごとく失敗だった。
郵政改革も道路公団改革も、本当は特別会計に流れる財政投融資と呼ばれた巨額の資金(一般会計予算の実に5倍近く)にメスを入れることだった。例えば、国民の目に見えない特別会計の巨額資金の出口としての道路公団を民営化すれば、財政投融資の不透明な金の流れはおのずと是正されるはずだ。だからこそ、真の民営化が期待されていた。
しかし、小泉氏は最終的に官僚に改革を丸投げした。「郵政改革!」「道路の民営化!」と号令はかけたが、そこから先は責任を放棄し、道路公団を「上下分離」方式にした。
上下分離とは、高速道路や本四架橋の建設で生まれたすべての負債とすべての道路資産を保有する機構をつくり、その下に道路公団を3分割してつくった道路会社を含め6社を置いて、実際の経営権は機構に任せ、各会社には経営権を持たせない方式である。
これは真の民営化などではない。国土交通省の官僚たちが現状維持のために考え出した悪知恵にすぎない。危機感を抱いた塩川正十郎氏が、最終局面で小泉氏に「上下分離では改革はつぶされる」と進言した。そのとき小泉氏は「上下分離って何だ」と尋ねたという。つまり小泉氏は問題の本質を何も理解していなかったのだ。
女性宮家問題でも、女性宮家の創設は男系天皇の制度を崩し、女系天皇制にしてしまうとの批判に対して、小泉氏は国会でこう述べた。
「愛子さまが結婚なさって男児がお生まれになり、その方が天皇になられれば男系天皇ではないか」
男系天皇は父親の血統で天皇家につながることを意味する。愛子さまと民間人の間に生まれたお子さまは男児であっても女系天皇になる。その大事な点を小泉氏は全く理解していなかったのだ。
いまさらこんなことは言いたくないが、問題の本質を何一つ理解せずに、政局だけに強い人物が、いま脱原発を旗印にして、情熱を燃やそうとしているのである。怖い話である。
そして細川氏は佐川急便1億円のことは忘れたのだろうか。
返済したから問題ではないという立場らしいが、では、20年前、なぜ辞任に追い込まれたのか。辞任したから、それ以上追及しないという政治的配慮が当時働いたのだが、政治に戻るのであれば、1億円問題はまたもや焦点となるだろう。
また、細川氏は、日本国歴代首相の中で初めて、日本の戦争を「侵略戦争」「侵略行為」と国会で断じた首相であることにも留意したい。日本を一方的に断罪する都知事の誕生もまた、怖い話だ。小泉、細川両氏の暴走こそ、あな恐ろしい。