「 政権交代で実現した南鳥島沖のレアアース2万年分の海底調査 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年1月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 969
文部科学省所管の独立行政法人、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が小笠原諸島・南鳥島沖の海底に眠るレアアース(希土類)泥の調査に乗り出すことになった。東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授の研究チームが6年前から指摘してきたレアアースの宝庫がこの海底に眠っている。加藤教授は南鳥島の海底調査を行うべく経済産業省に調査・研究への支援を要請してきたが、今回、文科省によって調査が実現することになった。
南鳥島は日本の東の国境の島である。周囲7・6キロメートルの三角形の島には自衛隊員と気象庁の職員が常駐しており、中国が手を出す余地はない。その島の水深5,600メートルの海底に眠る希土類泥の特徴の一つは、陸上の鉱床で採取される希土類泥に必ずついて回るトリウムやウランなどの放射性元素がないことだ。陸上での鉱床開発は必然的に放射能による環境への負荷と人体への健康被害を伴うが、海中で生成された希土類にはその問題がないのが大きな利点である。
これまでの調査で南鳥島沖の希土類泥が21世紀の産業、例えばハイブリッドカー、電子部品、光ディスク、エコロジー関連技術、最先端軍事技術、宇宙開発技術などにどうしても欠かせない重希土類を多く含んでいること、その点で軽希土類の含有率が高い中国産の希土類泥に比べてはるかに良質であることが判明している。
またその埋蔵量は、神々からの日本国への贈り物としか思えない膨大なものだ。日本の年間消費量のなんと2万年分が眠っている可能性があるというのだ。これを順調に開発すれば、もはやレアアースの供給を求めて中国の顔色をうかがったり、不条理な要求を突きつけられたりせずに済む。のみならず、日本にとって貴重な戦略物資として活用することが出来る。
米国ではいまエネルギー革命が進行中だ。あと2年で米国はロシアを抜いて世界最大の天然ガス生産国になるとみられている。さらに2020年までにはサウジアラビアを抜いて石油生産でこれまた世界1になる。
エネルギー輸入国から輸出国へと大転換しつつある米国はパナマ運河の大拡張工事も進めている。工事は来年中には完成し、それによってエネルギー輸出の運搬コストが大幅に下がり、米国のエネルギー資源の国際競争力が高まるとみられている。米国の液化天然ガス(LNG)をはじめとする輸出用タンカーの少なくとも六割がパナマ運河を通るとみられているが、運河を抜けて太平洋に出て、横断した先に位置するのはわが国である。しかも日本は世界最大のLNG輸入国だ。
いま日本は国際価格よりはるかに高い値段でロシアからLNGを購入しているが、資源需給で米国との協調が成立すれば、不当に高いコストを支払わなくても済む。
米国の共和、民主両党のブレーンがまとめた対日政策提言、第3次アーミテージ報告は、日米関係は軍事同盟にとどまらず資源においても同盟関係といえるほどの緊密な関係を築くべきだと提案した。そのような資源同盟において、南鳥島のレアアースは比類なく重要な要素となるのではないか。
今回の調査はその点で非常に意義深いとしながらも、加藤教授が指摘した。
「ただ期間が10日で短いのです。南鳥島はなんといっても遠いため、船での往復だけで4日かかります。調査出来るのは正味5日と考えなければなりません。現地ではまず人工的に地震波を送り海底の泥の厚さなどを調べます。次に管を20メートルの深さに打ち込んで泥を採取するのです。南鳥島の海底の全体を調べるには、私の考えでは約40本打ち込むことが必要で、40日かかります。5日で打てるのは5本です」
とはいえ、教授は、政権が交代してようやく政府がレアアースの調査に乗り出したことを大歓迎している。