「 野田首相は信ずる政策の実現に向け輿石幹事長を即刻更迭すべきだ 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年7月28日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 946
民主党幹事長の輿石東氏が原発再稼働問題に関連して、菅直人前首相に日本のエネルギー政策の提言を取りまとめるよう要請したというベタ記事が7月18日の「産経新聞」に出ていた。驚きを通り越してあきれてしまう人事である。幹事長としての輿石氏の考えを疑わざるを得ない。
幹事長は党首・首相を全力で支える立場にある。氏の人事はおよそすべて、野田佳彦首相を支えるのでなく、逆に足を引っ張ることばかりだ。
大飯原発の再稼働に際して「国民の生活を守るために3、4号機を再起動すべきというのが私の判断であります」「夏場限定の再稼働では国民の生活は守れません」と語った野田首相は、明らかに原発を日本のエネルギー政策の基盤の一つとして位置づけている。その点で前任者の菅氏とは正反対である。
首相官邸を取り囲む週末ごとの原発反対のデモは、すでに足かけ4カ月も続いている。そうした中で原発容認と再稼働を決断したのは、国益を考えた勇気ある決断である。その首相を支えるのが官房長官や幹事長の役割だ。にもかかわらず、原発反対論者で明確に脱原発を掲げる菅氏をエネルギー政策取りまとめの責任者に任命するのは、首相に公然と挑むに等しい。そのような人事をするからには、輿石氏はまず辞任すべきであろう。
振り返れば輿石氏の人事はおかしなことばかりだ。例えば、前原誠司氏の後任に前田武志氏を充てた。前原氏は脱ダム宣言で「コンクリートから人へ」を掲げ、それは民主党の公約でもあった。その後任に、馬淵澄夫氏らを経由して前田氏を持ってきた。
馬淵氏も脱ダム宣言には反対の立場だが、元建設官僚の前田氏はとりわけ強い反対論者だ。前田氏の下で八ッ場ダム建設中止が、明確な建設再開に反転し、その後、文字通り、建設官僚の思い通りの政策が続々と実現され始めた。高速道路の四車線化復活も、新幹線着工も、コンクリートずくめの政策である。
民主党の看板の一つが、いとも簡単に正反対の政策に取り換えられてしまったのだ。どちらの政策を選ぶにしても、党として国民に対する然るべき説明がなければならないが、民主党の手法は説明抜きの一方的即断で、まるで独裁政権のようだ。
ばかばかしくて論ずる気にもならないのが、防衛大臣に一川保夫氏や田中直紀氏が続いて就任した人事だ。課題が山積する中、とりわけ国防は最重要の問題である。国際社会の力関係は大変動の真っただ中にあり、とりわけわが国周辺は脅威に満ちている。
素人を売り物にしたり、気の毒なほど資質を欠く人物を、地位に就けるのは、日本国に対して政権与党が負うべき責任を放棄することである。輿石氏は政権与党のために日本国があると勘違いをしているのではないか。
そして、冒頭で触れた菅氏の起用である。最大限好意的に考えて輿石氏の意図が、党内の反野田勢力をまとめることで野田氏を支える点にあると仮定しても、この人事は救いようもなく政治家としての志を欠く。氏が支えるべき首相の価値観や、首相が目指す政策に、露ほどの関心もないときに初めて生まれてくる人事であろう。
輿石人事への批判は、氏を幹事長職に据え続ける野田首相の人事への批判でもある。当初の輿石氏起用が党内融和のためであったことは一応認めるにしても、党内融和では自らの目的は達成できないとわかった時点で、手を打たなければならない。
この苦境の中で、首相の志を明確に示して実行に移してみせることこそ大事である。それなしには、野田政権は活路を見いだせないであろう。だからこそ、いま鮮明に首相の志を掲げ、信ずる政策の実現に集中しなければならない。それを妨げる幹事長など即刻、すげ替えればよい。