「 寬仁さまが語られた『天皇と皇室典範』論 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年6月16日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 940
三笠宮寬仁(みかさのみや・ともひと)親王殿下が6日、薨去(こうきょ)された。気概ある方だったと思う。
2006年に私は『皇室と日本人』という本を、寬仁さまと共著の形で出版させていただいたが、同書はその前年の殿下との対談を反映させたものだ。対談の焦点は、当時、小泉純一郎内閣の下で有識者会議が女系天皇容認を既定方針として皇室典範改正を進めていた問題だった。寬仁さまはユーモアたっぷりにズバリズバリと皇室論を語られた。
「高校生のころ、はたと気が付いたらわれわれには同業者が16人しかいなかった」と切り出されるのだ。「同業者?」と聞き返すと「皇族のことです」とおっしゃって、愉快そうに声を出して笑われた。
皇室は一体どんな存在なのかについても明確だった。
「神代の神武天皇から125代、連綿として万世一系で続いてきた日本最古のファミリーであり、また神道の祭官長とでも言うべき伝統、さらに和歌などの文化的なものなど、さまざまなものが天皇様を通じて継承されてきたわけです。世界に類を見ない日本固有の伝統、それがまさに天皇の存在です」
「ヨーロッパの王室というのは普通の家から興って王権を握った王家です。かたや天皇家は日本の成り立ちとともに生まれました。ですから、ヨーロッパの王が強い『私』を持っているのに対して天皇は『私』を持っていらっしゃらない。イギリスの皇室であればウィンザーという家名がある。しかし天皇家には家名はありませんね」
寬仁さまの説明は、水を飲み下すように納得がいく。その天皇を戴く皇室を、寬仁さまは「国にとっての振り子の原点」に例えられた。
「国の形が右へ左へさまざまに揺れ動く、とくに大東亜戦争などでは一回転するほど大きく揺れましたが、いつもその原点に天子様がいて下さるから国が崩壊しないで、ここまで続いてきたのではないか」
その通りだと思う。
皇室をどう守り、いかにしてその存続を確かなものにしていけるのか。この点で寬仁さまは明確だった。それは日本最古のファミリーの形を忠実に守るという基軸に立つ主張だった。
有識者会議の打ち出した女系天皇論について、「2,665年間つながってきた天皇家の系図を吹き飛ばしてしまうことだという事実を、国民にきちんと認識してもらいたい」と言い切って否定なさり、皇族は何よりも「存在していることが大事」なのであり、この伝統を守ることが存在の最大の意義なのだと強調なさった。
「ピュアに考えていけば、やはり血統を守るための血のスペアとしてわれわれは存在していることに価値がある」と率直に語られた寬仁さまは、男系男子の皇位継承者が絶えるような事態を防ぐには、まず、GHQの占領下で皇籍離脱を迫られた一一宮家の皇族への復帰を考えるべきだとの持論を展開なさり、その手法として養子を可能にするための皇室典範改正こそ必要だとおっしゃった。寬仁さまの主張が正論として、私の心に強い印象を残している。
そしてこんなこともおっしゃった。皇族の仕事は法律で決められているわけではなく、極論すれば好きなことだけをしていればよい。自分は国民のためになりたいと願うばかりに、「ワーカホリック」のようになってしまう、と。16回もの手術を受けながら、本当に最後まで福祉に携わったお姿は、寬仁さまがそのお言葉通りに生きられたことを示している。
対談は東宮御所の敷地内にある寬仁さまの宮邸で行われたが、お訪ねしたときも、おいとまするときも、自ら玄関ホールまでお出ましになり、背筋を真っすぐに保って会釈なさった。帰り際に見せてくださった笑顔が、なんともいえず、魅力的だった。