「 普天間飛行場の移設予定地を一望できる要地の買収狙う中国 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年3月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 928
3月4日、中国の軍事費が初めて1000億ドル台に乗ったと発表された。台湾と朝鮮半島で着実かつ巧みに影響力を強化しつつある中国の軍拡は、日本にとっての最大の脅威である。
日本がなすべきことは今更、言うまでもない。自らの国防力を高めるとともに、日米安保体制を強化することだ。そのために、政府の意思だけですぐにできるのが、集団的自衛権の行使である。集団的自衛権を実効あるものにするために必要なのが、普天間飛行場の辺野古への移設である。
その辺野古近くの土地をいま、中国資本が買う動きがある。日米安保体制の重大な危機であり、早急な対策が必要だが、野田政権の反応は非常に鈍い。
中国が接近してきたのはカヌチャリゾートに対してだ。カヌチャは関連施設を含めると敷地90万坪、小さな湾を隔てて辺野古の真っ正面にある。V字滑走路が造られれば、滑走路を飛び立つ航空機はカヌチャベイホテルのフロントに向かって飛んでくる位置だと、同社社長の白石武博氏は語る。
もともとカヌチャは「風の音と波の音しか聞こえてこない」「建物は丘や山の稜線を越えない高さ」「敷地内の植生はすべて沖縄の特性を生かす」などを基本的方針として造られ、沖縄の美しい自然の中に溶け込んでいた。目標は単なるリゾート施設を越えて、生き生きと暮らす人々、特に退職後の人々の豊かなコミュニティをつくりたいというものだった。
「ところが」と、白石氏は語る。「V字滑走路案が具体的に語られ始めると、カヌチャへの影響の大きさも明らかになり始め、わが社の事業計画に金融機関が資金を出し渋りだしました。地域経済の推進役を果たしてきたという自負も私たちにはあるのですが、経営は厳しく、6月決算は3期連続の赤字かという瀬戸際です」。
企業としての存続にさえも疑問符がつけられ始めたと危機感を深めるが、そんな白石氏をさらに追い込んだのが普天間飛行場を辺野古に移転した場合の環境評価である。カヌチャへの影響は軽微とされていたのだ。
「カヌチャに対して支援策は講じないという政府の意思表示だと、私は受け止めました。であれば、企業として生き残りの道を探るのは当然です」
実は、自民党時代に、辺野古を見下ろすカヌチャの戦略的重要性を重視して、リゾート全体を政府が買い取る可能性が論議された。この件は額賀〓志郎(ぬかが・ふくしろう)防衛庁長官(当時)などを中心に練られたが、防衛省としての取り組みにまでは至っていない。民主党に政権が移ってからは、政治家レベルの話も消え、現在、カヌチャへの政府の関心はなきに等しいと、白石氏は訴える。
こうした事態を見透かしたかのように中国から引き合いが来た。台湾からも来た。
「一足飛びに中国に売ろうとか、そんなことではありません。普天間を辺野古に移すことの重要性は、私どもは十分に理解しています。国の国防政策にはこれまでもこれからも協力するつもりです。しかし、会社をつぶすわけにもいきませんから、さまざまな選択肢を検討しているのは確かです」
カヌチャに中国資本が入ったと仮定しよう。中国企業はおよそ皆、中国政府と一体だと考えるべきである。辺野古に海兵隊の飛行場が移り、海の一部の埋め立てなど、関連工事を行う場合、至近距離のリゾートを入手した側から差し止め訴訟を起こされる可能性もある。何よりも、高台にあるカヌチャからは辺野古を一望できる。
野田佳彦首相が本気で辺野古への移転を考えているのなら、まず、カヌチャへの中国を含む外国資本の侵食を防がなければならない。安全保障上重要な土地、水資源などの重要な土地を外国資本から守るための法整備を急がなければ、取り返しのつかない事態に陥るのは明らかだ。