「 なんでも反対ではなくなりつつある沖縄県民の意識変化を示した市長選 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年2月25日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 925
沖縄の危うさを感じたのが2月12日投開票の宜野湾市長選挙だった。普天間飛行場が立地する同市は年来、反米反基地闘争の要の地でもあった。闘争の先頭に立ってきたのが、市長選の最有力候補と見られていた伊波洋一氏(60歳)である。
氏は宜野湾市役所の職員を22年間勤めたあと、沖縄県議、宜野湾市長となった。2010年の沖縄県知事選挙出馬のために市長2期目の任期途中で退任した。知事選には僅差で敗北、今回、市長への返り咲きを狙った。氏が返り咲けば、普天間問題の解決はさらに難しくなると見られていたが、氏は今回も900票の僅差で佐喜真淳氏(47歳)に敗れた。
知事選、市長選と、伊波氏は連敗したが、私が注目するのは、それでも氏がそれなりの票を集めたという事実だ。終始一貫、徹底的な反基地闘争を展開してきた氏は、09年11月10日に東京・有楽町の外国特派員協会ではこう述べている。
「市民運動的には、沖縄の反基地運動と世界の反基地運動は、全体が実現をしていると思います」
「てにをは」がおかしいが、世界各地で反基地運動が行われているという意味であろう。氏はこうも語っている。
「多くの組織運動が、いろいろなかたちで米軍基地があるそれぞれの地域の運動と連帯をしております」
反基地闘争連帯の事例として、氏は沖縄、プエルトリコ、フィリピン、韓国間の連携を挙げ、「全体で米軍を押し出そうという動きは運動としてあるということは、まず報告しておきたい」と語っている。
氏の語る反基地闘争は反米運動であり、沖縄、プエルトリコ、フィリピン、韓国などから米軍を追い出そうという連携闘争の先頭に立ってきた氏は、まさに反基地運動の闘士である。県議にせよ市長にせよ、政治を直接動かす立場に就いても、氏は闘う市民運動家の域にとどまり、政治家として考えるべき沖縄ひいては日本国の安全保障についてまったく考えないかのようだ。沖縄の地政学は、沖縄および南西諸島こそ日本の安全保障上最重要の地域であることを示している。日本が直面する中国の軍事的脅威は沖縄本島と南西諸島海域が主舞台であるからだ。
中国共産党機関紙「人民日報」はすでに尖閣諸島と東シナ海を中国の「核心的利益」と呼び始めた。核心的利益とは、そこは中国のまぎれもない領土領海であり、分離独立は軍事力をもってしても阻止するという意味だ。中国の領土領海への野心を抑止するには、日米同盟を有効に機能させるのが最も効果的だ。そのために軍再編の流れに沿って、日本の軍事防衛機能を高めなければならない。
米軍再編は沖縄の基地負担を大幅に緩和する。米軍基地が沖縄に占める総面積は現在19%だが、再編で12%に下がる。嘉手納以南の基地はすべて沖縄の望みどおり返還されるのであり、反基地の人びとが受け入れないのは理屈に合わない。
同時に日本が留意すべきは、再編が米軍および自衛隊の機能低下につながってはならない点だ。そのために多くの工夫が必要で、その一つが普天間の辺野古への移転である。反対ばかりでは物事は進まないのだ。
だが、伊波氏は徹頭徹尾、辺野古への移転、県内移転に反対の姿勢を貫いてきた。その伊波氏の敗退は、沖縄県民の意識がすべてになにがなんでも反対というものではなくなりつつあることを示している。
では新市長となった佐喜真氏はもっとまともに中国の脅威と安全保障問題に取り組むことができるだろうか。氏は辺野古への移転を容認したこともあるが、今回の選挙では県外移設を掲げた。伊波氏よりずっと柔軟だが、まだ懸念と不安がつきまとう。それが沖縄の危うさである。