「 原発に高度な安全性を求めつつ いまこそ冷静に議論を深めたい 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年12月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 915
佐藤雄平福島県知事は11月30日、県内に立地している東京電力の原発10基すべてを廃炉にするよう要請すると発表した。福島第一原子力発電所の1号機から6号機のうち6号機、さらには第二原子力発電所は大地震と津波に耐え無事だった。だが、福島県は、すべての廃炉を求める。
一方、米国は新たな原発4基の建設に年内に着工する。新規原発の建設は米国では34年ぶりで東芝の子会社、ウェスチングハウス・エレクトリックが受注した。
中国は8月時点で広東省の嶺澳原発の新しい原子炉一基の商業運転を開始した。中国政府は2020年までに原発の発電容量を現在の7~8倍に急拡大する計画で、現在新規原発28基が建設中だ。ほかに38基ほどの新設も計画中で、それらはすべて、日本と東南アジアに面する海沿いに建設される。
こうしたなか、野田政権が目指すのは原子力協定の国会承認である。同協定はヨルダン、ベトナム、韓国、ロシアの4ヵ国と結び、日本の原発を輸出出来るようにするためだ。すでにカザフスタン、米国、カナダ、リトアニア、フィンランドとは協定を締結ずみで原発の輸出が交渉されている。トルコ、インドとは協定の交渉中である。
国内の原発が軒並み休止、停止を求められるなか、政府も企業も展開先を海外に振り向けるしかない状況である。
海外の動きを見ると、前述のように、3・11の日本の大災害にもかかわらず原発の新規建設は急増している。国際原子力機関によると、現在世界には439基の原発があり、30年までに790基に達する可能性がある。50年には世界の原発は1,000基を超えるとの予測もある。
新規に建設される原発は第三世代の安全性のきわめて高いタイプである。北海道大学大学院工学研究院の奈良林直(ただし)教授の説明を借りればその特徴は以下のとおりだ。
米国スリーマイル島の原発事故、チェルノブイリの原発事故、福島の原発事故のいずれも、弁の開け忘れ、規則違反、津波に対する安全規制と事前の準備の甘さに起因する人災が原因だったといっても過言ではない。
スリーマイル島以降、世界は、事故発生の場合、原発が自然空冷や水の蒸発を利用して原子炉を冷却する仕組みで、自分で事故を収束させる次世代の原発を開発してきた。一例がチェルノブイリの教訓として欧州の原発に設置されたフィルター付きベントである。これはフィルターで放射能をほとんど除去してしまい、ベントをしても放射能の拡散を防ぎ、被害をゼロに近づけることのできる設備だ。
不幸なことに、福島には、これが備えられていなかった。仮に備えられていたなら、放射能拡散を恐れる必要がないため、早期にベントを行って原子炉建屋の中の圧力を下げることが可能で、水素爆発にも至らなかったと思われる。ではなぜ、東電はフィルター付きベントを備えなかったのか。
奈良林教授は、同ベントの設置は検討されたが、見送られたと指摘する。直接の理由は、そのようなベントを備えるのは、原発の安全性に疑問があるからではないかという地元の声の前に、東電がそこから先、踏み込んで説得しなかったことだという。安全だという立場に立つ電力会社の説明に、県側は安全ならフィルター付きベントは不必要だろうと詰め寄り、そこで皆が沈黙して手を打たない状況が生まれたというのだ。100%に近い安全を求めるのは当然だが、その議論はもっと冷静で成熟したものでなければならないと考えさせられる一つの事例だ。
今、世界各国で建設されようとしている新しい世代の原発技術のおよそすべては日本企業が関与して完成させたといっても過言ではない。それだけに、いまこそ、冷静になって原発問題を考えたいと思う。