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2011.05.21 (土)

「 『不都合な数字』を隠した菅首相 政策転換の説明責任をまっとうせよ 」

『週刊ダイヤモンド』   2011年5月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 887

5月6日夜、突然、菅直人首相は中部電力に対する浜岡原子力発電所の停止要請を発表した。

理由は文部科学省地震調査研究推進本部の数字で、「30年以内にマグニチュード8程度の想定の東海地震が発生する可能性は87%ときわめて切迫している」ことと、「浜岡原発が東海地震の震源域内にある」という2点だった。

どちらも言われてみれば納得せざるを得ないような理由である。数字は具体的で説得力があり、東海地震は、東南海地震、南海地震、さらには首都直下型地震とともに、いつやって来るかわからない脅威として、日本人の心に刻み込まれている。結果、首相要請は国民の不安感の陥穽にスッポリとはまり込み、評価された。メディアは、首相が初めて発揮した真の政治主導などとして賞賛した。しかし、このような反応はあまりにも短絡的だ。

首相が本部長を務める福島原発事故対策統合本部が発表した経済産業省の資料に、今年1月1日に公表された日本全国の原発の危険度調査がある。30年以内に震度6強以上の地震が発生する可能性を原発ごとに分析したものだ。それによると、浜岡原発が84%と、非常に高いのは首相も引用した文科省の資料と共通している。だが、刮目せざるを得ないのは、福島第一原発の危険度が0・0%、第二原発が0・6%となっていることだ。

今年1月に0・0%と分析された福島第一原発が3月には巨大地震と巨大津波に襲われ、地震予知の難しさを示した。数字を基にした対策の限界を示すものでもあり、首相にとって、危険度87%の数字は浜岡原発停止要請の根拠になり得ても、福島第一の0・0%という数字は非常に都合が悪い。危険度0・0%の福島で大地震が発生したからには、他の地域も警戒しなければならず、浜岡原発を止めるなら、他の原発も止めなければならない。

そこで首相は福島原発の0・0%という「不都合な数字」をどうしたか。驚くことに、その数字だけを隠したのである。首相が本部長を務める統合本部のホームページ上の統計では、少なくとも5月11日現在、福島第一、第二原発の数字は省かれている。

かつて薬害エイズ問題で、厚生省の隠していた薬務局のファイルを公表させ、厚生行政の過ちを詫びた菅首相は今、自分の決断に不都合な数字を隠させるのか。そこまでして、浜岡原発を止めたのは、何のためか。原発事故への懸念ではなかったとまでは言わない。しかし、一連の姑息かつ不合理な手法は、首相が真に原発事故を危惧した結果の措置というより、他の目的があったのではないかと疑わざるを得ない。この人物の切望する他の目的とは、支持率上昇でしかないだろう。

それにしても、首相のエネルギーに関する国家戦略はまったく見えてこない。浜岡原発を停止させた今、福井、新潟を筆頭に、定期点検中の原発の再開は許せないという姿勢が生まれ始めた。対して政府は「他の原発は安全だという見解」を表明したが、首長や住民が求めるのは曖昧な政府見解ではなく、合理的な説明である。

首相の「政治主導」を支える合理的説明がなされない場合、運転再開待ちの7つの原発の再開はおぼつかない。現在営業運転中の原発20基も今年夏までには6基が、さらに来年春までにはそのすべてが定期点検で停止する。定期点検後の運転再開に道を開かなければ、ただでさえ厳しい日本の電力供給は、さらに深刻な事態に陥って、日本の産業基盤が崩壊する危険性も出てくる。

首相は、民主党が昨年決めたエネルギー基本計画の見直しも宣言した。きわめて大きなエネルギー政策の根本的転換を、それに代わる戦略や計画を示すこともなく、いきなり発表したのだ。首相が新たに築こうとするのは何か。その点をこそ、首相は語るべきだ。

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