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2011.04.28 (木)

「 増税が復興の真の支えとなるのか 」

『週刊新潮』 2011年4月28日号
日本ルネッサンス 第458回

菅直人首相肝煎りの復興構想会議が発足した。東日本大震災発生後約ひと月の間に設置された諸々の会議の内、少なくとも20番目の会議だ。

同会議が発表されたのは4月11日。前日の統一地方選挙の敗北の印象を打ち消すかのようなタイミングだった。統一地方選では鳩山由紀夫、菅直人、岡田克也三氏の地盤である北海道、東京、三重の知事選すべてで敗北し、民主党現執行部の下での選挙は惨敗に終わった。だが、菅首相は18日、参院予算委員会で退陣してはどうかと問われ、こう述べた。

「まずは復旧復興。できれば、財政再建も含めて与野党で青写真を作れれば歴史的使命を果たせたと。そこまで来れば本望だ」

日本と日本国民にとっては必ずしも本望ではないことに気づかず、続投する気の首相は、どんな復興を目指すのか。

復興会議初会合は14日。議長の五百旗頭(いおきべ)真防衛大学校長は記者会見で唐突に復興税を提唱した。結論ありきのように提唱された同税は別個の検討部会で論じられることになった。初会合直後の、この具体的増税発言は、明らかに菅首相の意向を反映していると考えざるを得ない。

増税は首相を支える岡田幹事長の考えでもある。被害総額は25兆円規模にも上ると見られる大震災への復興財源は、既存の歳出見直しだけでは対応出来ないとして、岡田幹事長は復興再生債の発行に言及した。増税の時期と規模は、これまた、これからの議論だそうだが、復興再生債の償還(返済)は税(増税)以外はないというのだ。

東北地方と日本全体の復興への希望は全国民が共有する。およそ全国民が協力を惜しまない。だが、増税が正しい答えなのかについては敢えて問いたい。復興は民間経済主体で力強い成長を実現して初めて可能である。被災地の経済はいま潰滅状態で、近隣地域の経済も非常に苦しい。その苦境の中で頑張っている現地の経済人はどう考えているだろうか。

「国に考えてほしい」

岩手県花巻市で社員74人の旭エンジニアリング株式会社を経営する藤沼弘文氏は、政府中枢で一気に高まりつつある増税論は「現場の経済を知らない人たちの案」だと喝破した。

氏は被害の最も大きかった三陸海岸沿いの大船渡に立地する菊池技研に、1億3,000万円の機械を納入するところだった。牡蠣殻を高温で焼いて粉末カルシウムにする機械である。粉末は食品用に加工されたり、或いは美しい白を発色するために漆喰に混ぜ合わされたりもする。完成した機械は、しかし、納品先の菊池技研が大震災に遭って引き取り手がなくなった。

旭エンジニアリングはその他にも、トヨタ自動車の100%子会社である関東自動車の下請けとして、カローラの部品も製造してきた。

「ところが、ICチップの供給が止まり、生産出来ません。電気も来ていて、材料さえ揃えば生産出来ます。けれど作れない。注文もこない。このまま我慢していると、部品生産自体が海外の企業に奪われます」

氏は生産が出来ないことに加えて、資金繰りが非常事態に近いと語る。

「昨年、トヨタが米国で糾弾され、生産が縮小したとき、私の所のような中小企業の仕事は全てなくなったのです。そこで銀行から緊急融資を受けました。その返済に丁度入ったところに、またもや大震災です」

氏は花巻工業クラブ会長として、大石満雄市長と掛け合った。大石市長が語る。

「花巻の地元企業は取引先の減少でこのままでは経営困難になりかねません。新たな取引先を開拓し売り上げを回復するのは個々の企業の責任ですが、市として、この最も苦しい局面で彼らを潰すような事態は招きたくない。銀行には公的資金の注入がありますが、企業にはありません。けれど企業が潰れれば雇用もなくなり、地域経済が落ち込み、日本全体のGDPが縮小します。それでは立ち直れるものも立ち直れなくなる。そこで、企業負担軽減のために、緊急融資の利子補填が出来ないか、市議会で議論することになりました」

銀行に緊急融資を求めると、必ず、保証協会の保証が要求され、その分、金利は0・5%なり1%なり高くなる。花巻市は、中小企業の無利子借り入れを可能にするために、銀行借り入れ利子と保証協会の金利分だけを補填することを考えているわけだ。

「本来、こういうことはまっ先に国に考えてほしい。たしかに国の融資制度には色々ありますが、利子も高く使いにくいのです。いま市が乗り出さなければ、花巻の経済は本当に潰れかねず、我々自治体が先行するしかありません。市が利子補填するなら全企業を対象にするくらいの規模でやらなければ効果がありません。けれど、一体、どれくらいの規模になるのか、いま調査中です。こんな時こそ、国は本当に役立つ支援を提供してほしいと思います」

混乱のときこそ、冷静に

政府中枢で広がる増税論について、大石市長も首を傾げた。

「財源なしの無責任な議論はよくないと、私も思います。しかし、大震災以前も、増税が景気後退につながることは明白でした。大震災の被害がこれほど凄まじいいま、増税がどれほど深刻な負の結果を招くか、よく考えていただきたいです」

阪神・淡路大震災のとき、民間も政府も復興のため、投資を活発にした。結果、GDPは落ち込むことなく、日本経済は立ち直りをみせた。今回も、経済全体の活動を冷え込ませてはならない。そのためには、なんとしてでも企業を甦らせなければならない。そんなときに復興のためとして復興税を課すのは本末転倒である。法人税の引き下げも見送られる方向で、経団連も同意した。

しかし、混乱のときこそ、冷静に原点を踏まえることが重要だ。経団連は現在の法人税率でさらなる税負担を引き受け、経済活性化に責任が持てるだろうか。資金需要を賄うために海外の円を国内に持ち帰ることが予想され、すでに急激な円高に見舞われた。各国政府の協調で円高は一旦は収まったが、市場が政府の思惑を超えて動き、円高が再発しない保証はない。円高で日本経済を支える輸出が縮小する危険性もある。

日本経済の牽引役を自任する経団連はなによりも、本来の企業活動を活発にし、成長を促し、国内でおカネを増やし、日本経済を力強く支えることのほうが重要だ。その意味で、いまこそ税制と経済構造について政治に物を言うべきだ。たとえば菅首相にTPP参加はどうするのかと問題提起せよ。国際競争に強い農業の枠組み作りのためにも、日本はTPPの制度設計に積極的に参加すべきであろう。

復興のために日本経済を強くするという原点に立てば、増税ほど理に適わないものはないはずだ。

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