「 中国とよい関係を築く方法は侵略されない軍事力を持つこと 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年1月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 871
1月7日、北京入りした米国防長官のロバート・ゲーツ氏に見せつけるかのように、中国人民解放軍が、彼らの誇るステルス戦闘機「殲(セン)20」のテストフライトを行った。レーダーにとらえられないステルス戦闘機を配備しているのは、世界で米国だけであり、中国が「殲」の開発を完了したのであれば、中国の軍事力はさらに一歩、米国のそれに近づくことになる。
中国政府はゲーツ長官を、人民解放軍戦略核ミサイル部隊の司令部、「第二砲兵部隊」に案内し、長官は「幅広い分野について語り合った。非常にオープンだった」と語った。
言葉では中国の「公開性」を評価したが、長官は中国の実態を鋭く見抜いているはずだ。長官が視察した第二砲兵部隊が、「場合によっては核先制使用も検討する」との軍事理論を部隊に周知していたことは、年初に報じられた。中国外務省はただちにこれを否定したが、2009年以来の中国の専横的ともいえる外交攻勢を見れば、核先制使用の考えが存在しても不自然ではないと思われる。
中国の目指すところを示しているのが、先に当欄でも指摘した09年7月の決定である。このとき、全世界の大使を北京に呼び返して胡錦濤国家主席が訓辞を述べる在外使節会議を開いた。その席で胡主席は鄧小平(とうしょうへい)氏の残した「韜光養晦(とうこうようかい)」(能力をひけらかすことなく、控えめにせよ)の教えを超えて「有所作為」(成すべきことを成す)旨を語ったといわれる。グローバルな規範や制度に合わせて中国自身のあり方を変えるのではなく、反対に中国の規範や制度に基づいて世界を変え、国際社会の動きを積極的に管理していくことが重要であると考え始めたわけだ。
その後の中国は、どの国の視点から見ても、外交、安全保障上の自己主張を必要以上に強めてきた。とりわけ領土問題についてその傾向は強い。
中国の侵略的攻撃の一例が、わが国固有の領土である尖閣諸島に対するものだ。他国の領土領海を中国領だと主張して、奪おうとする動きは、日本に対してだけでなく、他国に対しても同様である。中国が現在、領土を争っている周辺の国々は七ヵ国に上る。その中のインドの例を見てみよう。
インド北東部のアルナチャル・プラデシュ州、北部のジャム・カシミール(JK)州を、中国は自国領だと宣言、領土略奪の意図があらわな攻撃を強める。中国の対印攻勢は、南シナ海における攻勢と同じく、軍の展開を伴う。長年インドとパキスタンが領土を争ってきたJK州の、パキスタンが実効支配する地域で、中国は複数のプロジェクトを立ち上げ、現在、その推進のために多数の軍人を送り込んでいる。これは、軍による実効支配の始まりにつながる可能性がある。
一連の中国の強硬策は、米国に警戒を強めさせ、米印関係、米国と東南アジア諸国の関係を強化する結果を生んだ。普天間移設問題で冷却化した日米関係も、対中国の視点から再び緊密化し始めた。中国は反撃に出た。国務委員の戴秉国(たいへいこく)氏が昨年12月6日に大論文を発表したのだ。戴氏は胡主席の右腕で、事実上、中国外交を仕切ってきた人物である。
氏の論文は、中国はあくまでも平和的発展の国だと強調する内容だった。米国を軸にまとまりつつある対中牽制の諸国の動きと対中脅威論を鎮静化させることが狙いだといってよいだろう。
幾千年の歴史のなかで、謀略を最高の外交とする価値観をつくり上げてきた中国は、世界のどの国と比べても、外交巧者である。日本も、米国でさえも翻弄されてきた。
否応なく世界中が、中国とはよい関係を築かなければならない。その方法はたった一つ、こちら側が侵略されないだけの強い力を持つことだ。今年はそのことを悟り、日本の軍事力を強める年にしなければならない。
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ピンバック by Tweets that mention 櫻井よしこ » 「 中国とよい関係を築く方法は侵略されない軍事力を持つこと 」 -- Topsy.com — 2011年01月26日 21:37