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2010.10.23 (土)

「 歴史は私たちに教えている 『おとなの対応』の危うさを 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年10月23日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 859

菅直人首相が日中関係について、「いろんなことが元どおりに戻っていくのかなと思う」と期待を込めて語っている(10月9日)。

「元どおり」とは、氏が首相に就任した直後の日中関係を示すようだ。首相は6月13日に温家宝首相と電話会談し、続く27日、カナダのG20首脳会議で胡錦濤国家主席に会った。そのときの日中関係はよかった、そのときの状態に戻り、11月に横浜で開催するAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に胡主席に出席してもらいたい、外交の成功をかたちにしたいということなのだろう。

「菅外交」の成功のために菅政権は全面的に中国に譲歩してきた。尖閣諸島の領海侵犯事件で船長を処分保留で釈放し、今、明白に中国が東シナ海のガス田「白樺」(中国名「春暁」)を掘削中であるにもかかわらず、手を打たない。中国に遠慮して、ノーベル平和賞を受賞した獄中の民主運動家、劉暁波氏の釈放を望むということさえ言わない。首相は自分の名誉や成功を国益に優先させているのだ。

これではまったくダメなのだ。日本は今こそ、中国の脅威に断固として立ち向かわなければならない。まず、尖閣諸島を守る万全の体制をつくること、海上保安庁と自衛隊の人員や装備を増やし充実させることだ。米国や南シナ海で中国の脅威に直面しているアジア諸国と連携を強めることだ。

こう主張すると、必ず反論される。そんなことは中国の反発を招くだけだ、逆効果だと。中国を刺激しないためには、結局日本が譲って「おとなの対応」をするのがよいと、反論する人々は言う。宥和策を取れと言うのだ。

しかし、歴史は宥和策の無意味さを私たちに教えている。歴史に残る悪名高い宥和策は1938年9月のミュンヘン会議でチェンバレン英国首相らが取った政策である。当時すでに、ヒトラーは侵略の意図をギラつかせていた。24年に発表した『わが闘争』で、すべてのドイツ語圏の国をドイツ帝国に編入すると公約していたが、38年3月のオーストリア侵略で、それを実行に移し始めたのだ。イタリアは傍観し、フランスは混乱に陥り、英国のチェンバレンはこれを容認した。

ヒトラーのオーストリア併合から2週間後の3月24日、チャーチルは英国議会下院で、「過去5年間、ドイツは熱心に再軍備を進めた」「恐るべき変容が進行しつつある」「われわれは後顧の憂いのない安全保障の一大努力をすべきだ」「今は、わが国が目覚める最後のときだ」と、熱心に説いた。

反応はじつに冷たかった。「また、チャーチルの大言壮語が始まった」と冷笑する議員もいた。チェンバレンは根っからの商人で保健大臣や財務大臣は務まったが、外交・安保をつかさどる宰相としての能力は欠いていた。

チェコスロバキアにも侵略の構えを見せるヒトラーにチェンバレンは説得され、ドイツの侵略に宥和策で臨んだのだ。いわゆるおとなの対応だ。それが38年9月のミュンヘン会議だった。

結果、ヒトラーは堂々とチェコのズデーデン地方を切り取り、翌39年3月にはチェコの全領土を奪った。9月1日にはポーランドに侵攻し、ついに第二次世界大戦が勃発したのは周知のとおりだ。チェンバレンの宥和策がドイツの勢力拡大路線を許し、結局、大戦を生じさせるに至ったのは明らかだ。そのとき、英国を率いて、最終的にドイツの侵略を止めたのが、英国は軍事力を蓄え、ドイツを阻止せよと、「大言壮語」したチャーチルだった。

日本はそんなドイツと40年9月に三国同盟を結んでしまった。世界の政治・軍事情勢を読み取ることの大切さとともに歴史の苦い教訓を私たちは学ばなければならない。今学ぶべき苦い教訓とは、軍事力を背にして領土拡大を図る中国にはいかなる宥和策も無意味だということだ。

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