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2010.10.07 (木)

「 『検察判断』に逃げ込んだ『菅・仙谷』の卑怯者外交 」

『週刊新潮』 2010年10月7日号
日本ルネッサンス 第430回

尖閣諸島周辺の日本領海侵犯事件で菅直人、仙谷由人両氏の卑怯さほど、耐え難いものはない。

船長を逮捕するのか強制送還するのか。必ずや日中外交摩擦につながるこの重大問題の結論が政府の判断なしに下されることはあり得ない。

小泉政権下の2004年3月、尖閣諸島に上陸した中国人7人を自民党政権は強制送還した。小泉純一郎首相が記者会見し、「法に基づいて適切に処理することでやってきたが、日中関係に悪影響を与えないよう大局的に判断しなければいけない。そういう基本方針に沿って、関係当局に指示した」と述べ、自身の責任で政治決断したことを認めた。政治家、とりわけ首相たる者は逃げてはならないのだ。

領土領海という主権に関わる問題は、司法判断の形をとりながらも、常に政府の最高レベルの政治判断で処理されてきた。それは今も同じだ。

04年の事例と異なり、今回、民主党政権は中国人船長の逮捕に踏み切った。自民党政権が国外退去でお茶を濁してきた事案を逮捕に持ち込んだことについては、民主党の政治判断を評価する。

釈放もまた同様に政治判断だったのは、高まる中国政府の圧力を前に、官邸が外務省と協議を重ね、外務省が9月23日、担当課長を那覇地検に派遣し、官邸の意向を伝えたことからも明らかだ。那覇地検が「我が国の国民への影響と今後の日中関係を考慮した」として、船長釈放を発表したのは、その翌日だった。

にも拘らず、仙谷官房長官は、「那覇地検の判断」だと記者会見で繰り返した。世の中の人々はおよそ皆、仙谷氏が度し難い嘘つきであることを知ったはずだ。

菅首相もニューヨークで「司法の判断」だと述べた。その表情の自信のなさ、視点の定まらないおどおどした目、外交において首相たる者は何をなすべきかを知らず、否、それ以前にそもそも外交とは何かということも知らない首相の姿は、日本国民として見るに堪えなかった。

領土問題は存在しない

那覇地検という地方の小さな役所の判断だと言い逃れて、首相の責任を回避しようとしたのは最低である。卑怯である。首相たるものは無能力であっても無気力であってもならないが、金輪際許されないのが卑怯者であることだ。「政治主導」と喧伝してきたにも拘らず、状況が最も困難なとき、責任転嫁して「司法の判断」の陰に逃げ込むのは政治家であるよりも前に、人間として許されない卑しい行為だと、首相は知るべきだ。

この卑怯者外交で日本が失ったものは測り知れない。中国は、日本は恫喝に屈する国だと再確認し、南シナ海で中国の脅威に直面しているアジア諸国は、日本恃(たの)み難しと悟ったことだろう。国際社会での日本の信頼は屈辱的に失われた。

対日外交で鮮やかなまでの力の効用を実感した中国は、現在東シナ海ガス田及び尖閣海域で、さらに日本側を圧迫しつつある。仙谷長官は2隻の漁業監視船が尖閣周辺の我が国の排他的経済水域(EEZ)内に展開中であることを認めた。EEZと領海の接する接続水域で「極めて微妙な」動きをみせる2隻を、海上保安庁は巡視船6隻を出して警戒中だが、東シナ海のガス田周辺は一段と緊迫している。民主党の対処能力を見くびった中国がいまを好機ととらえ攻勢に出ているのだ。

白樺ガス田周辺には国家海洋局所属の海洋調査船海監51号など10隻もが遊弋(ゆうよく)中だ。これほど多くの船が集合したのは初めてで、白樺の掘削はいつ始まってもおかしくない。そのとき、日本はどうするのか。

政府の救い難い愚かさに憤るよりも、日本人はいま日本がなすべき問題の整理を優先し、ひとつずつ着実にこなしていかなければならない。

まず、日本は国家として、原則を明らかにすべきだ。力ずくで現状を変え、事実を歪曲し、領土領海を奪おうとする中国の蛮行を、日本は認めない、許さないという政治的決意を内外に明確にするのだ。

その決意を国際社会に伝えるために、尖閣諸島が日本固有の領土で、明治42年には248人もの日本人が住んでいたこと、中国が初めて領有権を主張したのは1971年12月だったことなどをわかり易く説明し、尖閣に関して領土問題は存在しないことを国際社会の共通理解とするまで、積極的に広報するのだ。

次に中国側が、今回の事件は日本の海保が引き起こしたと内外で讒言している点について、中国船による意図的衝突を示すビデオを公表すべきだ。日本を悪者と決めつけていきり立つ中国国民に正しい情報を知らせ、中国政府の嘘を暴くのに、映像は何よりも雄弁に語るはずだ。

同時に、この瞬間も悪化しつつ進行する眼前の問題に対応しなければならない。漁船は必ず、再び、来る。中国は軍事力をも持ち込み、資源にも手を出すだろう。だからこそ、尖閣諸島や東シナ海の日本の資源に中国が手を出すのを抑制させるのだ。

隷属日本の姿の惨めさ

力さえあれば領土領海はもぎ取ることが出来るという19世紀的帝国主義が21世紀のいまも通用すると彼らに誤解させないために、日本は静かに、 しかし決意して力を見せなければならない。彼らを、領土領海を侵す気にさせないための抑止力として、尖閣への自衛隊駐屯を急ぐのだ。日本の決断と行動が、南シナ海で中国の横暴に圧迫されているアジア諸国をどれほど勇気づけることか。日本はアジア諸国の先例である。ここで頑張らなくてどうするのか。

次に、白樺ガス田の共同開発について話し合いに応じず、単独開発に突入しそうな中国に対し、日本も早急に独自の試掘に乗り出すことだ。

さらに、日本には領海侵犯を罰する法律がない。与野党が協力して領海侵犯取締り法を整備するのだ。

そして、最も重要なことを、私たちは今度こそ本当に考えよう。なぜ、こんな気概のない国になり果てたのか、と。中国はなぜ、尚も謝罪と賠償を求め、日本人4人を拘束し続け、レアアースの輸出を事実上停止するなど、強硬策をとり続けるのか、と。答えは明らかだ。何事も米国に頼る属国精神に浸りきった日本の真の姿を、中国が見てとったからだ。

領土領海や国の安寧を守る力を、まず自国が持つべきなのは当然だ。しかし、戦後日本は、現行憲法にあるように、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し」「安全と生存を保持」すると決意した。現実には通用しない壮大な虚構に目をつぶり、日本は考えることをやめて、米国に頼りきってきた。憲法の虚構と、米国に頼る隷属日本の姿の惨めさに、もう、気づかなければならない。日本の力で日本を守る。そう決意し、実行し始めるとき、私たちは初めて、菅氏や仙谷氏の卑怯な姿と決別出来るだろう。

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