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2010.07.03 (土)

「 メダカ、オタマジャクシ、トンボ…… 小さな池で育まれる多様な生き物 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年7月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 844

一昨年の早春、庭の池に12匹のメダカを放した。寒い冬を二度越して、メダカたちは数え切れない「大勢力」に育っている。水たまりに等しいささやかな池なのに、多種多様な生き物が集まり、彼らの世界をつくり上げているのがおもしろい。その中で今、オタマジャクシが一大勢力を形成する。

オタマジャクシは、近づく足音に反応していっせいに土の中に潜ってしまう。小さな尾を左右にヒラヒラさせて丸い体で泳ぎ回る姿は、子どもの頃、水田や公園の池で見かけた「よちよち泳ぎ」の彼らの記憶を呼び覚ます。

ところが先日、思いがけないことを目撃してしまった。池に近づいても、ピクリとも動かないオタマジャクシが1匹、いたのである。他の連中が皆、精一杯機敏に土に潜るのを尻目に、この1匹だけは他のことに夢中だ。なんと彼は、メダカの横腹にしっかり食いついていたのだ。

愛敬のある姿、泳ぎが下手でメダカよりずっと動きはのろいのに、どうしてあの素早いメダカを捕らえることができたのか。ビオトープづくりの専門家、三森典彰さんに尋ねた。

「オタマジャクシはなんでも食べますが、生き物をハントすることはありません。おそらくそのメダカは自然死したのでしょう。それをオタマジャクシがいただいているんだと思いますよ」

自然界の小生物に敬語を用いる三森さんは、こうも言った。

「メダカの寿命は1年ですから……」

人間の寿命に比べるとなんとはかないことか。しかし、その間にメダカは複数回産卵し、たくさんの子孫を残す。死骸はオタマジャクシに食べられて、他者の役にも立てる。はかなくなんかない。うんと充実した一生である。

そして今週、またもや大事件が起きた。二一日、ショウブの葉に見なれない黄色のトンボが止まっていた。近づくと彼は少し飛んで近くの桜の枝に移った。翌日早朝、庭に出ると、昨日と同じ黄トンボが池に落ちて、もがいていた。

私はハッと気がついた。黄トンボはヤゴから孵化したばかりの赤ちゃんトンボだということに。前年に産みつけられた卵は水中でヤゴになる。彼らは肉食で、オタマジャクシもうかうかしていると餌食にされる。蚊の幼虫も同様だ。年を越して、よい季節になると、彼らはショウブの茎などに上って脱皮し、変身する。孵化(かえった)ばかりのトンボはひ弱なため、水辺から森に移り、小さな虫をたくさん食べて丈夫な体を作る。ひと月もすると立派に成長して水辺に戻り、そこら中を飛び回って自分の縄張りを確保するのだ。

三森さんが語ったトンボ物語を、突然思い出したのだ。幼いトンボの色までは教わっていなかったが、この頼りない動きを見れば、間違いない。

水中に半分体を沈めるかたちで、どうにかしようとしている黄トンボに人さし指を差し出すと、サッとしがみついた。藁をもつかむ状況だったのだ。私は彼が葉っぱに移れるように、指をショウブの葉に近づけた。心得たもので、彼はおとなしく葉っぱに移動した。

書斎に戻り、原稿に取りかかった私は、書斎の正面に位置する池に時々目をやりながら、黄色の姿を確認した。すると、おや、姿が消えている。

「あら、もう飛び立ったのかしら。元気でお暮らし」と心の中で彼の旅立ちを祝したが、ふと、不安になった。見るところ、少々ドジなトンボであるから、また落ちたかもしれない。万一のためだ、確かめようと、庭に出た。

すると、案の定、前と同じように半分体を沈ませて池に浮かんでいた。

やれやれ。私は再び人さし指を差し出し、彼はやっとの思いではい上がった。葉っぱで2時間あまり羽を乾かしたあと、彼は今度こそ近くの神社さんの森に旅立った。これで私は安心して原稿に集中出来る。早く立派なおとなになって戻っておいで、と、姿の見えない新米トンボに、私は呼びかけた。

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「 メダカ、オタマジャクシ、トンボ…… 小さな池で育まれる多様な生き物 」

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