「 参院選は『保守再生』に繋がるか 」
『週刊新潮』 2010年6月10日号
日本ルネッサンス 第414
国際社会における日本の地位は、鳩山政権下でつるべ落としとなった。もはや民主党には日本立て直しは無理であろう。第二民主党のような谷垣禎一総裁の自民党の手にも負えないだろう。いまの日本に必要なのは無責任なリベラル勢力ではなく、責任ある健全な保守勢力である。台頭を期待されながら、力を発揮出来ずにくすぶり続ける保守は、日本の近未来を左右する7月の参議院議員選挙で甦ることは出来るのか。そんな問いを掲げてシンクタンク・国家基本問題研究所(以下国基研)が5月28日、討論会を開催した。
論者は元首相で自民党議員など約80名の議連「創生『日本』」会長の安倍晋三氏、「たちあがれ日本」代表の平沼赳夫氏、「日本創新党」党首の山田宏氏である。「みんなの党」にも「新党改革」にも呼びかけたが、各々の事情で彼らは参加しなかった。
国基研の遠藤浩一拓殖大学大学院教授が、7月の参院選で予見出来る潮流の大変化を説明した。
2003年の民主、自由両党の合併以来の選挙で、民主党の比例における得票数は連続して2,100万を超えた。05年の小泉自民党が大勝した郵政選挙でさえ、民主党は2,100万票を取った。同党の基礎票は2,100万とみてよいだろう。一方自民党の04年以降の参院選比例の得票数はいずれも1,600万台にとどまった。昨年の衆院選では1,800万票台にのびたが、民主党の2,900万票台には遠く及ばなかった。
ところが、7月の参院選では最低でも1000万票が民主党から逃げ出すと見られる。その大部分を「みんなの党」が吸収するのでは、暴走する民主党を阻止し、日本を甦らせることにはならないと遠藤氏は語る。
「政策、思想的に、みんなの党は民主党とかなり近いからです。この二政党とは異なる保守政党の大同団結がいま求められています。平沼さんは『たちあがれ』設立時に『他のことはすべて忘れて、尊い日本のために、反民主のために頑張る』と仰った。その実践が望まれます」
壇上の平沼氏が大きく頷いた。大同団結が必要なのは小政党の得票が必ずしも複数の議席につながらない可能性があるからだ。大同団結して死票を出来るだけ減らすことが重要なのだ。しかし、票だけのための大同団結は野合にすぎない。大事なのは、価値観と理念の共有である。
まとめ役としての自民党
2時間半に及んだ討論では、安全保障、教育、経済の3大課題を個別に論じた。普天間問題や中国への接近に典型的な、鳩山政権の安全保障政策が度し難い夢想であるのに対し、三氏の安全保障論は手堅かった。
「日本の全地方自治体が沖縄に感謝しつつ、自国の安全は自力で守ることを目標に日米同盟を強化し、集団的自衛権の行使を可能にすべきだ」と山田氏が語れば、平沼氏は持論の「自主憲法制定」と韓国に席巻されつつある対馬の危うい現状を語った。安倍氏は、祖父岸信介は安保条約改定の先に憲法改正を見据えた二段階で日本の真の自立を目指したと語った。首相当時、氏が専門家の懇談会を設け集団的自衛権を認める素地を作ったのは周知のとおりだ。
教育でも三氏に違和感はない。大胆にまとめれば、それは日本のよき伝統や価値観を継承する教育、「私」を大事にするとともに「公」の精神を忘れない教育に集約される。
経済では、民主党の社会主義的残滓のバラ撒き政策は人心を堕落させるとの点で三氏は一致した。
「普通は人が鳩に豆を撒くものですが、民主党では鳩が豆を撒いた。豆の中身は空っぽだったし、一部には毒も入っているということです」
安倍氏の比喩に会場は拍手で揺れた。
「豆の中の毒とは、バラ撒きによって引き起こされる人々の精神の堕落のことです」と氏。
山田氏は、11年前の杉並区長就任時には942億円あった借金を、あと2年でゼロになるところまで改善した体験を語り、地方自治体の頑張りも国家が破綻すれば終わりだと強調、事業仕分けも、公務員数を減らさなければ無意味だと強調した。
批判は民主党のバラ撒きに集中したが、「みんなの党」はどうか。遠藤氏が指摘した。
「民主党と同じような施策を『みんなの党』も訴えています。子育て手当の名前で、欧州並みの月額2万円から3万円にするという公約で、3万円なら民主党より多額です」
このように殆ど価値観を同じくする三氏であれば、やはりまとまるのが得策だ。その場合、まとめ役としての力も責任も、自民党にあるのではないか。安倍氏が答えた。
「今年1月に打ち出したわが党の新綱領は、やはり自民党こそが保守政党だとくっきりと示しています。そもそも平沼先生は同じ『創生「日本」』の仲間です。いま私は党の選挙方針を決める立場にはありませんが、『創生「日本」』は是非、平沼さん、山田さんたちと連携したいと思います」
連携共闘が可能な選挙区
平沼氏が受けて強調した。
「首都東京で候補者を立てなければ政党の鼎の軽重を問われます。ただ、1人区2人区など出来る所では共闘したい。参院選後は共同会派を組んで保守の力を結集させたい」
東京選挙区では共闘は成立しないということだ。山田氏が応えた。
「日本創新党は作ったばかりの政党で、失うものはありません。大事なことは如何に戦うか、如何に新しい日本の姿を提示するかです。平沼さん安倍さんらと、象徴的な選挙区で共通の旗を立てて是非、協力したい。私たちは今回の参院選挙で戦友になると考えています」
三者の連携共闘が可能な選挙区はどこか。安倍氏が発言した。
「自民党は山梨で、宮川典子さんという31歳の元教師を立てています。熱血教師で日教組教育反対の立場から日教組の大物、民主党の輿石東氏に挑みます。山梨は日教組の組織率が90%を超える。宮川さんにとっては本当に強敵です。しかし、ここで共闘して、民主党参議院のドン、輿石氏を敗北に追い込めれば、その意義は大きいと思います」
即座に、山田氏が応えた。
「宮川さんは松下政経塾の後輩でしっかりした人物です。山梨での共闘を実現しましょう」
平沼氏も発言した。
「山梨なら戦友になれます」
平沼氏はさらに、千葉景子法相の神奈川での共闘も提案した。
こうして価値観や志の同質性は確認出来たが、それでも政治は人間の営みである。中々、1+1が2にはならない。しかし、いまは平時ではない。断崖絶壁に追い込まれた日本の危機、有事である。大目標の下で協力し合う秋(とき)だ。どこまで私心を捨てて「保守再生」、「日本甦り」に向けて突っ走るか。政治家の真価を発揮する秋だ。