「 政治家に不可欠な戦略構築能力が欠如する鳩山首相では国が危うい 」
『週刊ダイヤモンド』 2010年5月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 838
世界諸国のリーダーたちは、日々の政治を大戦略につなげて考える。近未来、中期的展望、長期的展望と三段階に分けて問題を整理し、対策を講ずる。
大戦略を描くには、自国だけでなく周辺諸国がどのような動きを見せるか、地球をいくつかの地域に分けて各地域がどのような状況にあるかを読み取り、予想しなければならない。
では、わが国の鳩山由紀夫首相に、その種の「先読み」能力、戦略構築能力はあるか。答えは言わずもがなである。何かどこかが決定的におかしい首相は、普天間移設問題で初めて沖縄入りするときもなんら「腹案」などなかった。が、側近にこう言ったそうだ。
「目を見つめて語り合えばわかってもらえる」
まことに、首相はどこかが決定的におかしいのである。こんな人物がわが国の政治のトップに居続けるうちに、世界は大きく変わりゆく。どのように変化していくのかについて、最新号の「フォーリン・アフェアーズ」にデイビッド・カプラン氏が寄稿している。
氏は、米国新安全保障研究所の上席研究員で、これまでに多くの優れた分析を世に問うてきた。
「中国の力の地政学」で、氏は陸海双方において、中国がどこまでその力を浸透させていくかを分析、予測する。
歴史を振り返ると、「大帝国」が企図して大帝国になることは稀で、むしろ「有機的」、つまりおのずと大帝国へと成長していくというのだ。国家が力をつけ始めると、そこからさらに新しい需要が生じ、力を伸ばす。あるいは、「一種の不安がさらなる拡張へと走らせる」というわけだ。
カプラン氏は、中国の外交的野心は約一世紀前の米国の野心と同様、積極果敢に中国を駆り立てていくが、米中の勢力拡大への動機はまったく異なると説く。米国が国際社会に一定のモラル、価値観、自由や民主主義政体を広めようとしたのに対し、中国はエネルギー、鉱物資源、稀少金属などを貪り続けるために拡張する。それは世界の総人口の約五分の一を占める中国人の生活水準を上げ、維持するためだと見る。
資源の効率的入手を目指す中国は、必然的に超現実志向の外交・安全保障政策を展開する。たとえば、金正日体制を支持し続けるのも、脱北者を逮捕しては送り返すのも、現体制維持が北朝鮮の有する豊富な資源を入手するのに都合がよいからだ。そこには守るべき価値観などはない。自由も人権も民主主義も埒外なのである。
中国的超現実外交における異常な軍拡の持つ意味を、カプラン氏は次のように読み解く。目にするだけで他国が中国を恐れ、端から抵抗する意思を喪失させてしまうほどの強大さを維持して、結果として戦わずして勝利を得るための軍事力なのだ。
だが、単にショーケースに入れて見せつけるだけの軍事力ではないのは明らかだ。中国が最も力を入れて構築している軍事体制は、敵、即ちこの場合は米国だが、米国海軍がいくら頑張っても攻撃することさえ出来ない中国内陸部に軍事力の中枢機能を完成させるとともに、米海軍の中枢機能である空母を、必要あらば壊滅させるだけの攻撃力を構築することだという。
二一世紀の世界の前に立ち塞がる最大の脅威は拡張し続ける中国の力であり、その前で米国がロシアと手を結ぶことも大いにありうるというのだ。
脅威は軍事力だけではない。中国経済の持つ影響力は言うまでもないが、中国最大の武器の一つは人口力だと、カプラン氏は言う。たとえば、ロシア極東のロシア人は700万人、国境の反対側には一億人を超える中国人がいる。武力よりも経済力よりも、まず、ロシアは人口力によって中国に敗北するというのである。鳩山首相らの唱える外国人参政権がいかに日本を足元から滅しかねないかが見えてくる。