「 普天間飛行場移設の可能性はある 沖縄からの真の発言に向き合え 」
『週刊ダイヤモンド』 2010年5月1・8日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 836
沖縄県普天間飛行場の移設をめぐる鳩山由紀夫首相の対応は、絵に描いたように拙劣で無責任だ。おそらく首相は、自ら全責任を引き受けて問題解決に当たったことがない人なのだろう。
そんな首相に、沖縄県知事の仲井眞弘多(ひろかず)氏の言葉を聞かせたい。
沖縄の主要二紙は、連日「国外・県外移設」に向けてのキャンペーンといってよいような紙面づくりを行っている。たとえば「沖縄タイムス」は4月20日の一面トップで独自の世論調査を発表、90%が国外・県外移設を望んでおり、県内移設への反対は昨年秋から26ポイントも増えたと大見出しで報じた。同紙も、もう一方の現地有力紙である「琉球新報」も、基地反対を掲げて主張してきた新聞で、その報道内容は、実は、ある程度予測出来る。
こうした主張を、声高に前面に押し出す紙面づくりの中にも、沖縄の本音を示す事象やメディアの主張とは本質的に異なる物の考え方を示唆する記事が掲載されているのが、面白い。その一つが、前述の世論調査と同じ日の紙面に載った仲井眞知事のインタビュー記事だ。
沖縄では25日の日曜日に「県民大会」が行われ、大会では当然、基地への激しい反対論が主軸となる。その大会に、知事は「もし出るなら、ネバーギブアップで鳩山さんに頑張ってほしいというのが心境だ」と、思いがけないことを述べたのだ。
「仮に5月じゃなくても、もう少しずれ込んでもいい。もう少しおおらかに見たほうがいい」と、首相にとっては干天の慈雨のような言葉で首相をいたわってもいる。さらに、「本来、防衛の施設なので、国民は等しく歓迎すべきものだ」と、刮目すべきことを述べている。
新聞でもテレビ報道でも、基地は「迷惑施設だ」と指摘される。だが、仲井眞知事は「国民は等しく歓迎すべき」だと言った。知事の発言は正論であり、多くの米軍基地を抱える県の知事としての発言の重さを、首相は読み取るべきであろう。
但し、知事は「沖縄に(米軍専門施設の)75%を置かず、ある意味、どんな県、どんな地域でも本来受け入れないとおかしい」とも述べ、「歓迎すべき」ではあるが、必ずしも、沖縄が引き受けるということではないかもしれないと、示唆している。政治家として当然のバランスであろう。
さて、鳩山首相が知事発言から汲み取るべき点は、知事が「県内移設に反対」と明言していないことだ。移設先として、候補に挙がったと報じられ、内閣官房副長官から、官房長官との会談を打診された鹿児島県徳之島の関連三町長は、にべもなく拒絶した。徳之島の激しい拒絶姿勢と、仲井眞知事の姿勢を冷静に比べてみることだ。
もう一点、沖縄について、首相が心を配るべき対象は、移設先とされた沖縄本島北部名護市の辺野古地区の人々の考えである。辺野古の人々は、この地区の陸上に新たな滑走路を造る、いわゆるキャンプ・シュワブ陸上案には、「体を張って阻止する」と言う。他方、同地区からは、現行案、つまりこれまでに決定されていた沿岸部への移設への反対論はいまだ聞こえてこない。
確かに、1月に行われた名護市の市長選挙では、反対派の市長が誕生した。だが、実際に飛行場の移設先とされた辺野古地区では、メディアの出口調査で、賛成派の候補者が70~80%の支持を得たのである。
普天間の移設は、日本政府、現地、米国政府の賛成なしには実現しない。米国政府は、辺野古沿岸部への移設という現行案にこだわり続けている。沖縄の状況は、現行案であれば可能性はあるということを示している。あとは鳩山首相がこうした状況を理解し、対応出来るか否かである。中国海軍の脅威は迫っている。沖縄からの真の発信に向き合い解決を急ぐことだ。