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2010.04.03 (土)

「 米国の医療保険制度改革と中国の影響力増大の懸念 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年4月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 832

米下院は3月21日の日曜日深夜の本会議で、オバマ大統領の悲願である医療保険制度改革法案を成立させた。過去100年間、セオドア・ルーズベルト大統領以来、誰も成し遂げ得なかった改革を実現させたことで、オバマ大統領は歴史に名を刻んだといえる。

大変革だけに現実は厳しさを伴うだろう。それにしても、オバマ改革は米国をどのような方向に変えていくのか、米国の対外政策に、どのような長期的影響を与えるのか、尽きない関心を抱かせられる。

1年半前、オバマ氏は国論を統一して超党派で医療保険改革を成し遂げると公約したが、現実は正反対だった。共和党議員全員が反対したのみならず、民主党からも30人以上の反対者が出て、議会には深い亀裂が生じた。

世論も賛成41%、反対54%(ラスムセン全米世論調査)で、反対が賛成を13ポイント上回って二分された。

メディアも同様だ。「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)紙は3月22日付の社説をこう締めくくった──わが社は同法案に激しく反対してきた。われわれは他国の政府管掌保険を検証し、それが高い税負担、経済の低成長および医療サービスの質の低下を生じさせていることを認識するからだ。(オバマ大統領は)政治的に最初の国民の審判を11月(の中間選挙のとき)に受けるだろう。

他方、「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)紙は、改革絶賛の社説を掲げた──法案可決は歴史的成果で、時の経過とともに医療保険は劇的に変わる。新医療保険は現行の社会保険制度やメディケア(高齢者向けの公的保険)に比肩する重要性を帯びる制度となる。

インドネシアへの外遊予定を取りやめ、大統領自ら議員らの説得に当たって成立させた「オバマ・ケア」は、米国の医療をどのように変えるのか。

1961年以来、国民皆保険が当たり前になっている日本人には驚きだが、米国の総人口約3億人のうち、医療保険未加入者は5,500万人に上る。オバマ・ケアで2019年までに3,200万人が保険に加入するが、2,300万人は取り残される。うち三分の一が不法移民とその残留者だ。改革に必要なコストは10年間で9,400億ドル(約85兆円)。財源はどこにあるのか。

オバマ・ケアを支持する「NYT」紙などリベラル系のメディアには楽観的見通しが並ぶ。たとえば、「メディケアの支出削減、ムダの排除、民間の高額保険加入世帯への課税、富裕層の投資や資金運用利益への課税によって、85兆円が捻出できるだけでなく余剰が出る」という具合である。

対して「WSJ」紙はこの種の楽観論を否定し、紙面で、一般世帯への負担は、年額695ドル(約63,000円)もしくは年収の2・5%の課税となる、保険業界など産業界への負担が10年間で1,080億ドル(約9兆7,200億円)に上るなどと具体的に指摘するが、「ムダを削って捻出する」という楽観論者の主張は突き崩せていない。鳩山民主党が、総選挙のキャンペーンで、ムダを省いて子ども手当などの財源を確保すると公約したのに対し、自民党が反証し得なかったのと似た構図でもあろう。

日本からの視点として問題になることの一つは、弱者救済という、どう見ても政治的に正しく、否定しがたい政策の、米国経済にもたらす影響である。米国はすでに国内経済立て直しのために中国による国債購入に深く依存する。そのために米国はアジア外交で中国に遠慮せざるを得ず、負の影響を受けている。医療保険改革でそのような傾向がさらに強まり、米国の中国への気兼ねが強まれば、日本周辺、西太平洋、インド洋での負の影響はより深刻化するだろう。医療保険改革さえ、西太平洋やインド洋の安全保障に結び付けて考えざるをえないほど、中国の脅威が高まっているということだ。

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「 米国の医療保険制度改革と中国の影響力増大の懸念 」

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