「 オバマ大統領の“戦い”を理解しない鳩山政権の平和論は日米関係を危うくする 」
『週刊ダイヤモンド』 2009年10月31日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 811
米国のオバマ大統領のノーベル平和賞受賞のニュースに、鳩山政権の人びとはたいそう喜んだ。
鳩山由紀夫首相は、オバマ大統領が先に表明した核のない世界を目指すという考え方に共鳴し、9月24日の国連安保理首脳会合で「核廃絶の先頭に立つ」と力を込めて述べた。岡田克也外相は核のない世界を目指す立場から、10月20日、来日したゲーツ国防長官に、核の先制不使用について日米間で協議したいと持ちかけた。
米国から見れば、日本政府は理想を見るあまり、国際情勢の現実を見ておらず、オバマ大統領の立場への理解にも欠けると映るのではないだろうか。
「変革」を唱えたオバマ大統領は、今その変革の実現を迫られ、重い課題に直面している。最重要問題の一つがアフガニスタンだ。オバマ氏の大統領選挙以来の公約は、イラクからの撤退と、「テロとの戦い」の主戦場をアフガンに移すことだった。つまり、イラクが「ブッシュの戦争」なら、アフガンは「オバマの戦争」なのだ。
だが、アフガン増派と繰り返してきたにもかかわらず、オバマ大統領はいまだに決断を下しえないでいる。
一方、現地で指揮するアフガン駐留米軍のマクリスタル司令官は9月下旬、駐留軍は現状の6万8,000人では不十分で、12ヵ月以内で3万~4万人を増派しなければ「過激派の打倒は不可能になる」と政府への報告書で指摘した。
この分析と要請は、大統領の従来の主張と基本的に一致する。しかし、政権内にはバイデン副大統領を筆頭に反対意見が根強い。世論も同様だ。NBCテレビの世論調査では、増派反対が51%、賛成が44%である。
オバマ大統領は、メッセージ性の強い明晰なスピーチの印象からは想像しにくいのだが、政治家としての決断は遅いといわれている。今では「オバマスタイル」という言葉は優柔不断を指すといわれるほどだ。
実情に通じた現地司令官とワシントンの意見の相違が拡大し、世論が厭戦気分に傾けば傾くほどに、「オバマスタイル」の大統領はますます決断を下せなくなるわけだ。
アフガン増派を主張する司令官はマクリスタル氏が初めてではない。前任のマキャナン司令官は、増派を要請して、この5月に更迭された。しかし、司令官を更迭しても、アフガンの現実は変わらない。後任のマクリスタル氏も、就任数ヵ月で自らの情勢分析に基づいて、前任者と同じ結論を導き出したわけだ。
マクリスタル司令官は9月の報告に続いて、10月1日にも、「アフガン米軍の規模を縮小せよ」と主張するバイデン副大統領の主張を「短絡的」と批判した。危機感からオバマ大統領は翌2日、国際オリンピック委員会総会に出席するためデンマークのコペンハーゲンに向かったが、その機内に急遽マクリスタル司令官を呼び寄せ、話し合っている。今後数週間で結論を下すことになったが、「テロとの戦い」への対処という難しい問題についての決断はどちらの方向に行っても今後、米国に大きな負担となっていくと思われる。
そんなオバマ大統領にとって、ノーベル平和賞の受賞は有難迷惑であろう。増派すればノーベル平和賞受賞者のイメージを損なうであろう。増派しなければ米国は「テロとの戦い」に敗れると現地司令官が一致して言うのである。
そんなときに鳩山、岡田両氏の言動が浮いて見えるのは当然だ。核のない世界を訴えるなら、まず、日本自身が核で脅威を与える諸国に屈しない力を持たなければならない。米国の核に頼りつつ、インド洋での活動を中止し、沖縄の普天間移転問題も事実上白紙に戻すという。これでは民主党の政策は同盟に悖(もと)ると言われても仕方がない。民主党は日米同盟の重要性を再認識すべきだ。