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2009.09.24 (木)

「 特集 陥落目前 『東シナ海ガス田』に迫る『中国の脅威』 」

『週刊新潮』 2009年9月24日号
日本ルネッサンス 拡大版 第379回
「国境」が危ない」 【前編】

9月1日、日本最西端の与那国島を訪れた。九州南端から500キロ離れた沖縄本島、そこからさらに500キロの与那国島はまさに日本の西の国境の島だ。

島の東端に阿尼花(あだにばな)の海岸がある。小高い場所の見晴台から、碧い海とのどかな牧場が見渡せる。

阿陀尼花の海岸で、牧場主で与那国防衛協会副会長の糸数健一氏(56)に話を聞くと、氏が思いがけないことを言った。

「日が暮れる頃、中国の調査船が岸スレスレに近づいてくるのです。日中は沖合いにいますが、夕方になると接近してきます」

それは領海侵犯ではないか。そんなことがあるのか。驚いて問うと、糸数氏はさらに力を込めて語った。

「暫く前には3日連続で接近してきました。上陸しようと思えば、すぐに出来るところまで来た。島の人口は1,600人とわずかです。特にこの東の端にはパラパラといるだけです。夜間に上陸しても誰も気づきはしません。私は中国は海底の地形や海流だけではなく、島々に上陸して各種施設まで、調べている可能性があると思いますよ」

驚愕すべき話だ。それにしても糸数氏はどのようにして中国船を見つけたのか。

「私は毎日、牧場の見回りに来て、牛や馬の世話をします。仕事が終わったら牧場の周りをマラソンするのが日課です。そしてこの海岸から海を見ます。その繰り返しの中で中国の調査船を見つけたのです」

たしかに中国の調査船なのか。太陽と潮風で、逞しく焼けた氏が笑った。

「私は島生れです。高校進学で島を離れ、東京理科大に学び、気象庁に就職しました。何年間も気象観測船や海上保安庁の船に乗っていました。調査船かどうか、大体の調査内容も推測できます」

氏は、昨年12月に、中国の武装調査船2隻が尖閣諸島周辺の日本領海を侵したことが大きく報道されたことに触れ、こう語った。

「与那国でも、その他の島でも、同じようなことは頻繁に起きていると考えた方がいい。ただの牧場主の私が、これほど度々中国船を間近で目撃しているのです。中国の船がここにだけ来て、他の島にいかないことはないでしょう」

氏は、海保も海自もこうしたことに気づいていると感じている。

「しかし、海保も海自も、どうにも手が回らないんじゃないでしょうか。見ていると本当に手薄ですから」

日本の南西の海には、有人の島だけでも190ある。その中で自衛隊の部隊が配置されているのは沖縄本島と、その北東にある奄美大島、沖永良部島、沖縄本島の西の久米島、南西にある宮古島の5島だけだ。ただ、久米、宮古両島にはレーダーサイトと小規模の警戒隊が駐屯するのみだ。

つまり、沖縄本島から与那国島の長径500~600キロの空海域には、外敵の侵入や軍事的脅威に対抗する自衛力は実体として存在しないのだ。領海を侵犯されても、警告、排除はおろか、侵犯の事実にさえ気づきようのない安全保障上の空白が存在する。

そうしたなか、いま、東シナ海で中国が猛烈な動きを展開中だ。東シナ海は日中の中間線で分けるべきだとする日本に対して、中国は、東シナ海は中国の大陸棚の延長線上にあり、沖縄トラフまですべて中国の海だと主張する。日本固有の領土である尖閣諸島も中国の領土だとして譲らない。

日中係争の海で、中国はこの夏、突然、活動を開始し、驚くべきスピードで開発を進めた。民主党衆院議員で安全保障問題に詳しい長島昭久氏が語る。

「たとえば、南海2号と呼ばれる井戸があります。中間線から中国側に入った八角亭の北、10キロのところです。ここに彼らは、あっという間に試掘用のオイルリグを建てました。

日本の海上自衛隊の哨戒機が資材を曳航する中国船を最初に確認したのが8月15日でした。20日には、海のどまん中にオイルリグが建てられ、施設は試掘可能なところまで完成しました。翌21日には早くも掘削が始まっています。掘削の開始は、海水の濁りですぐにわかります」

資材運搬の確認からわずか6日後に掘削が始まったのだ。南海2号の海底に天然ガス田があると仮定して、中間線を超えて日本側につながっているかは不明である。したがって、同開発に日本が抗議する理由は、いまは見つからない。

「人のものも俺のもの」

中国の活動はそれだけではない、中間線をまたいで日本側にガス田が広がっていることが確認されている白樺(中国名・春暁)で、極めて重大な事態が起きていると、長島氏が警告する。日本は完全にしてやられたと言うのである。

白樺については、昨年6月、日中両政府が共同開発することで合意した。開発の具体策について交換公文書を早期に作成することも合意した。だが、中国側は過去1年以上、交換公文書作成の交渉に一切応じてこなかった。そして、今年夏、事態が急変した。長島氏が語る。

「南海2号で掘削が始まった8月21日、白樺にも掘削実施に必要な3つの施設が出来上がりました。技術者や労働者のための住居棟、高い鉄塔を備えた掘削棟、掘り上げた資源を仕分けする処理施設です」

右の3施設が完成すれば、中国はいつでも掘削出来る。日中の合意は完全に破棄されかねない。それにしても、日本政府はこの1年余り、一体なにをしていたのかと、長島氏は憤る。外務省担当者は、昨年6月に共同開発が合意されると、中国で、日本に譲りすぎたとの激しい反発が起き、さまざまな要因を考慮せざるを得なかったと説明する。

「武大偉外務次官がわざわざ記者会見しなければならなかったほど、強い反発でした。反発はなぜ起きたのか。中国国民は、東シナ海の中間線の中国側はすべて中国の海である、そこには日本の侵入を許さないと考えます。交渉すべき海域は、中間線と、中国側の主張する200海里の線の間の海域だけだと考えるのです。日中の共同開発は、中間線から日本側においてのみ許されるのであり、本当の中間線は、元々日本が主張する東シナ海の中間線でなく、その中間線と沖縄トラフまでの海を二分する線だと考えるわけです」

平たくいえば、東シナ海の中国側半分は中国の海だから絶対に譲らない。残り半分の日本側の東シナ海なら、それを二分する線に沿って、共同開発を受け入れてもよいという、「俺のものは俺のもの、人のものも俺のもの」という考えだ。

このような中国世論への配慮ゆえに日本の主張ができないとしたら、それは過度の配慮というものだ。日本の国益を反映しているとは到底、言えない。このような状況が、1年以上続き、7月10日、中国船が白樺付近で確認されたのだ。

先述したように中国はいつでも白樺での掘削を始められる施設を完成させた。だが、白樺は試掘のための南海2号とは異なる。単に掘るだけではなく、大量の砂や海水とともに掘り上げる天然ガスを、ここで処理しなければならない。精製した天然ガスをパイプで送り出すには大規模な処理工場が必要で、その大規模施設を建設したのである。南海2号の完成には5日間、白樺は40日。明らかに中国は、周到な準備の末に、今を最大の好機とみて断固として行動した。では、日本の国益を脅かす具体的動きが続いたこの40日間、日本政府はなにをしていたのか。

「最初の動きを、日本政府は7月10日に海自のP3C哨戒機が撮影した写真で確認、すぐに中国政府に抗議しました」と、担当者。

藪中三十二外務次官は13日の記者会見で、中国側が「ガス田の維持、管理と説明してきている。維持管理が必要というなら分かる」と述べた。

殆んど危機感が感じられない説明だ。この時点でさえ、現場ではとんでもないことが起きていた。

なす術もなく

その片鱗を「読売」が7月29日の朝刊で報じている。編集委員の勝股秀通氏の「国境防衛鈍い政府」の記事である。記事中の写真には白樺ガス田に横づけされた大型のクレーン船と大量の資材が写っている。白樺に集結した3隻の船は、こういう大型船だったわけだ。だが、藪中次官はこうした「中国船」の実態を説明していない。

現場では7月13日までに、白樺のプラットフォーム上に、従来からあった白い色の住居棟に加えて、新たな5階建の住居棟が完成していたのだ。彼らはたった2日間で、数百人を収容する住居棟を作り上げた。

外務省はどう対処したか。「朝日」、「毎日」は7月22日付で各々、白樺周辺から中国船が撤収し、掘削は確認できなかったとの短い記事を外務省情報として報じた。つまり、外務省は、中国船の集結は維持管理目的ではなく、開発工事のためだったことを知りながら、「撤収」「掘削はなし」と、伝えたことになる。

先の「読売」の記事は右の報道の1週間後だったが、これは海上自衛隊経由の情報だった。

この間、中曽根弘文外相が7月22日、タイのプーケットで楊潔篪(ヨウケッチ)外相に「強い懸念」を表明した。だが、外務省は基本的に中国に口頭で抗議し、「維持、管理だ」と言われ、「納得できない」と反論し、「維持管理だ」と再主張され、なす術もなく、8月21日に至ったわけだ。

なぜ、この間、国益を損う深刻な事態を与野党の共通認識として、対策を講じなかったのか。なぜ、メディアにも国民にも知らせなかったのか。

関係者が語った。

「政府は日本国民が事実を知ったとき、強い中国批判が巻き起こることを恐れました。万が一、中国側が開発を中止すれば、恰も、日本の反中世論に屈したかのように見える。すると、逆に中国世論がおさまらない。中国政府は、ますます、開発を中止できなくなる。だから、日本国民に知らせずに、『冷静に』交渉したいと考えたと思います」

この決定は、外務次官らが官邸に上げ、首相、官房長官、外相、経産相の4人が了承したという。日本政府首脳らによる会議でも、中国の立場に配慮し、日本の主張を展開できず、国益が損われていった。
結果として、中国は完全な既成事実をつくり、日本は断崖絶壁に立たされた。政治の責任は極めて重い。

日本政府は中国側に、万が一「レッドラインを越えたら」、つまり、掘削を始めたら、日本は「断固たる対抗措置」を「必ず」取ると通告済みだ。

問題は、自公政権の対中外交のこの失敗を托される民主党政権である。絶体絶命の状況を、はたして民主党政権が打開していけるのか。日本の危機が続く。

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