「 公明党離脱は自民再生の大好機だ 」
『週刊新潮』 2025年10月23日号
日本ルネッサンス 第1168回
10月10日、自民党総裁、高市早苗氏に公明党の斉藤鉄夫代表が自公連立離脱を宣言した。思いがけないこの展開は、高市氏にとって大いなる幸運になり得る。連立解消は安倍晋三元総理を含めて心ある政治家がやりたくてもできなかったことだ。それを、公明党自身が言い出した。自民党は真の意味での自立国家になるために、筋の通った施策を行えることになる。無論、容易ではない。高市氏の信念と気概が問われる局面だ。
自民党は石破茂首相の1年間で、衆議院、参議院両院で公明党の議席を加えてさえも半数に満たない小政党になり果てた。公明党が去った今、与党の衆議院の議席は196にとどまる。衆議院465議席の半分の233に37議席も足りない。参議院自民は100議席、全体の248の半分に24議席足りない。
公明党の議席は衆議院で24、参議院で21。その分を国民民主、日本維新との共闘で補うのを基本戦略とせざるを得ない。両党とは基本理念について公明党よりも親和性がある。高市氏は自国維の連携を、数合わせを越えて価値観の共有を基に実現しなければならない。その目標に向けての動きは進みつつあるというのが私の認識だ。
私はこれまで自公連立の解消なしにはわが国の真の自立はあり得ないと主張してきた。憲法、教育、国防などについて、基本的改革に取り組もうとする時、公明党は常に妨害勢力となってきた。現在、参政党を含めて、公明党よりはるかに日本の国柄を大事にする政党が育っている。新たな保守勢力と協力し、国柄に基づいた自立国家への道を歩む時が巡り来たのだ。険しいけれど、自信をもって前進するべき時なのだ。繰り返すがこれは大きなチャンスだ。高市氏は政治家として日本国再生に命懸けで取り組む決意を固めることだ。
創価学会の実情
それにしても斉藤氏はなぜ突如、連立を切ったのか。氏は⓵靖国神社参拝と歴史認識、⓶外国人との共生、⓷政治資金の在り方の3つの懸念事項を自民党に示した。
⓵と⓶は合意できたが⓷が不十分だとして、断絶に至ったと氏は説明する。が、後述するようにその主張には多くの矛盾がある。同時に斉藤氏の要求は、「自民党は潰れろ」というに等しく到底呑めないものだった。
斉藤氏は政治資金の受け皿は政党本部と各都道府県組織に限定し個々の議員が後援会などを通じて寄付を受けるのは禁止せよと要求した。それを10月10日の党首会談の場で即決せよと求めた。公明党幹部が打ち明ける。
「相手の党の成り立ちを理解し尊重しなければ連立は無理です。自民党は議員個々人が票も資金も集めて活動する。それが彼らのエネルギー源で、わが党とは全く違います。斉藤代表の要求は自民党を潰します」
では、斉藤氏ら公明党議員の票及び資金集めはどのように行われているのか。別の人物が公明党の支持母体、創価学会の実情を語った。
東京都港区を例にとると、学会員は以下のように組織化されている。港区は「総区」と位置づけられ、その下に「区」が2つある。区の下に複数の「本部」があり、本部の下にこれまた複数の「支部」がある。支部の下にさらに幾つもの「地区」があり、学会員は5段階組織の最下部の地区に所属する。
地区では座談会などの会合が定期的に開かれ、学会員は共に学習し、扶(たす)け合い、研鑽を積む。池田大作氏の著書と教えが今も大事な教材だ。学会員は非学会員の地元の人々と普段から交流するように指導される。近所の店で買い物をする。顔見知りになっておく。或る意味、伝統的な日本社会の人間の絆をつくるよう指導される。学会に優しく親切な人が少なくない要因でもあろうか。
選挙になると学会員は各々の務めを果たす。候補者のパンフレットをポストに入れ、ポスターを貼る。近隣住民には公明党への投票を依頼する。電話作戦も展開する。学会員同士、必ず投票に行くよう声をかけ合う。無論献金もするだろう。公明党候補者らは学会の施設を集会場としても使う。総じて公明党議員の選挙運動の費用は相当少なくて済む。
このような文化は自民党にはない。違いは非常に大きい。従って斉藤氏の献金窓口を絞れとの要求は、高市総裁でなくとも自民党としては呑めないものだ。斉藤氏は自民党が呑めない要求を懐中に抱いて離脱ありきで党首会談に臨んだのだ。その真の理由について、公明党の一丁目一番地はカネについての清潔さだと斉藤氏はあくまでも主張する。
しかし2024年10月の衆議院選挙では、公明党は自民党が政治資金不記載問題を咎めて非公認とした埼玉13区の三ッ林裕巳氏、兵庫9区の西村康稔氏に推薦を出した。その他にも同じく不記載議員9名に推薦を出した。公明党の清潔政治の主張とは異なるではないか。
親中派を地で行く
肝心の斉藤氏自身が複数回、不記載案件で質されている。20年12月14日政治資金収支報告書の不記載(寄付100万円)、21年11月5日資産等報告書の不記載(金銭信託1億円・株式3200株等)、22年11月25日政治資金収支報告書の不記載(2件目)、22年12月2日選挙運動費用収支報告書の領収書不記載などである。
いずれも斉藤氏は訂正した。氏が問題にする旧安倍派の人々も訂正し、説明し、選挙で信を問うた。なぜ自分だけはよくて旧安倍派は悪いのか。不思議なことだ。
政治資金問題は石破政権下の「政治改革特別委員会」でも両党間で話し合われた。自民党側理事は小泉進次郎氏だった。当時も結論は出ていない。斉藤氏はなぜ当時、石破、小泉両氏にもっと強く迫らなかったのか。自民党は現在と同様、結論を出さなかったのであるから、公明党は離脱してもよかったはずだ。なぜしなかったのか。総合的に考えると「政治とカネ」が離脱の原因だという斉藤氏の主張には納得がいかない。ではその他に何の理由があるのか。
斉藤氏も公明党も高市氏の保守的政策を疎んでいるのではないか。自民党総裁選挙の前から斉藤氏は「保守中道の人でなければ連立は難しい」と公言していた。保守中道とは親中的ということか。高市氏は中国の脅威をよく認識している政治家の一人だ。対中抑止力を高めるための防衛予算について、小泉氏はGDP比2%を実現すると語ったが、高市氏は3.5%以上と語った。高市氏なら日中首脳会談で言うべきことをきちんと提示できるだろう。これこそ公明党との大きな違いだ。
ウイグル人などへの中国共産党の人権弾圧について、わが国が超党派で非難決議を採択しかけたとき、これを事実上潰して無意味な内容にしたのが公明党だった。親中派を地で行く公明党であればこそ、高市氏を嫌ったのではないか。
自公の価値観は根本的に異なるのだ。公明党離脱を前向きに評価し、日本国の真の再生を実現するのが高市氏の使命だと考えるゆえんだ。
