「 民主党政権が運んでくる『教育荒廃』と『エコ破綻』 」
『週刊新潮』 2009年9月10日号
日本ルネッサンス 第377回
民主党の勝利に終わった総選挙から、2つのことが見えてくる。日本人の気概を奪い無力化を狙ったGHQの政策が60余年を経て結実したこと、自民党が自壊したことだ。
日本人の気概喪失と無力化は各政党のバラ撒き公約とそれに無批判な大方の反応に表われていないか。民主党も自民党も有権者に訴えたのは経済的にいかに多くを与えるかだった。子供手当、奨学金、高速道路無料化、消費税の据え置き、中小企業の法人税減税など、負担なき受益のみだ。
自民党が財源を問えば、民主党からは無駄を省くという以上の説明はなく不毛の論議が続いた。その中で、有権者は民主党に圧倒的支持を与えた。
この姿には既視感がある。憲法第3章「国民の権利及び義務」に透視される姿である。米占領軍が作った現行憲法では、個人が有する権利と自由が過度に重視され、個人が果たすべき責任と義務は軽視されている。その憲法に基づいてすべての法律、条例、政令が作られ、戦後の日本社会が形づくられた。結果、国防、環境、教育など重要な議論はなされず、民主党に特筆されるバラ撒き公約に支持が集まったのではないか。
また、今回の大敗で自民党の真の自壊が始まったのではないか。1955年の自由民主党結党以前も以後も、日本は基本的に保守政権によって運営されてきた。政権交代は2回起きたが、保守勢力の基盤が崩壊したわけではなかった。2回とも、政権をとった革新勢力が倒れていったのだ。拓殖大学大学院教授でシンクタンク国家基本問題研究所企画委員の遠藤浩一氏が語る。
「47年、新憲法下初の総選挙で社会党が第一党となり、片山哲氏の革新内閣が出来ました。同内閣はマルクス主義に傾倒する左派と自由民主主義的な社会主義を標榜する右派の対立で短命に終わりました。
次の政権交代は93年の細川護煕氏のとき。8党派の寄せ集め政権は1年も経たずに崩壊しました。表向きは細川氏が佐川急便から巨額の資金を得ていた問題で退陣したとされていますが、真相は違います。
ちょうど核開発疑惑などで北朝鮮情勢が緊迫し、クリントン政権の対応が注目されていたとき、同盟国の日本では、北朝鮮と太いパイプでつながる武村正義氏が官房長官の椅子に就いていた。これでは安全保障上同盟国の機密を守れないと問題視する米国側の声に耐えられなくなった細川氏が政権を放棄したとも言われています。
つまり、安全保障という国家の基本問題で看過出来ない断層を抱えたまま政権を担ったことが政権崩壊の原因だったのです」
では今回の民主党はどうなのか。民主党には綱領がない。結党以来10年、一度も綱領が作られていない。作ることが出来ないのだ。安全保障、憲法改正、外交。重要課題になればなるほど、民主党は深く二分されてしまう。綱領作成で、党は分裂しかねない。
「党内の矛盾は結党以来、変わらない。戦後の日本政治史の政権交代失敗の構造と大差ないまま、今回、民主党は圧勝したのです」
遠藤氏は、勝利した民主党の欠陥を明らかにしたが、今回の政権交代がこれまでのそれと大きく異なるのは、政権を明け渡す保守政権としての自民党が、真の意味で瓦解しつつあることだ。
93年の選挙では、たしかに自民党は政権を失ったが、議席は222から223へとひとつ、増やしていた。自民党の下野は選挙前に自民党が分裂したからである。有権者が突きつけた判断というより、永田町の勢力争いの結果だった。ところが今回自民党は大幅に議席を減らした。93年の下野とはその点で根本的に異なる。
当時と現在のもう一つの相違は自民党の体質の変化である。93年に自民党は下野したが、それでも一人立ちしていた。だが、自民党は社会党・新党さきがけと連立し、自自公、自公を経て公明党と一体化した。この質的変化は保守政党の致命傷となって今日に至る。保守政党らしさを発揮出来ない自民党を、多くの支持者が見限った。自民党への失望は極めて深いといえる。
「左翼リベラル臭」
今回の総選挙を、自民党が自ら負けることで与党の座を明け渡す初めての出来事として特筆する一方で、遠藤氏は有権者自身の判断で、結党以来矛盾を内包したままの民主党を選んだこと自体が深刻な問題だと強調する。
「自民党にお灸を据える」というが、有権者は候補者、政党と運命共同体ではあっても高みに立って政党を見下ろす存在ではない、お灸を据えたと思っていたら、有権者がお灸を据えられることになりかねないと警告するのだ。
右から左まで、実に幅広い人材がひしめく民主党の本質をどう考えればよいのか。
「圧倒的多数、ほぼ8割は政策理念的には無色透明と言えると思います。残りの1割が確信的な左翼、もう1割が確信的な保守。党内勢力図では、決して左翼政党とはいえないのですが、マニフェストや政策集インデックスからは左翼リベラル臭が漂ってくる。大勢を占める控えめな保守が、自己主張の強い少数の左派に圧倒されている実態があります」と遠藤氏。
少数の「確信的左翼」の1人は、間違いなく同党「4人組」、小沢一郎、鳩山由紀夫、菅直人、輿石東各氏のなかの輿石氏であろう。山梨県教職員組合の委員長から党の代表代行となった。氏が今年、日教組の新春の会合で「教育の政治的中立はあり得ない。政治から教育を変えていく」と語ったことは周知の事実である。
民主党の政策集インデックスの「文部科学」の項には日教組の主張が並ぶ。民主党の教育政策は日教組教育とほぼ重なるのだ。
大阪府下の公立学校で校長を務めた一止羊大(いちとめ・よしひろ)氏(ペンネーム、66歳)が教職員組合による「戦後教育」の実態を語る。
「組合教育はまさに戦後教育の大罪です。公立学校で校長として務めた経験でいえば、現場の多くの教師は、国旗、国歌を口にする人は『右翼』という認識です。日本の伝統や文化よりも、日本の影の部分が、針小棒大に教育されます」
そんな教育を受けた生徒は、「戦前の日本はいまの北朝鮮と同じと思い込んでしまう」と一止氏は嘆く。
「私はあるとき『戦争は嫌だという気持ちは私も人一倍持っています。私の兄は海軍の予科練に入り、わずか17歳で戦死しましたから』と話し、軍服姿の亡兄の写真を見せました。すると、ある女性教師が言ったのです。『先生のお兄さんも侵略者だったんですね』と」
世間では通用しないこの種の認識のズレ、疎外感が現場の常識なのだという。こうして子供たちは「日本=侵略国」と思い込んでいく。
「兄の同期の方はいま82歳。私の体験を話したら愕然として、孫の代になったとき、日本が存在するのかと心配していました」
一止氏は組合とともに、教育を蝕んできたのが教育委員会だと批判する。
「形式だけと言ってよいと思います。組合の圧力に抗す気など全くありません。日の丸、君が代で言えば、国旗が掲揚され、国歌が演奏されていれば、誰も起立しなくても、大して問題にはされないのです」
どれだけ学校の現場が形式主義に染まっているか、一止氏が実体験を語った。
「組合から卒業、入学式でそれほど日の丸を掲げ君が代を歌いたいなら、校長室でやれと言われ、ある校長は摩擦を怖れる余り、本当に、教頭と2人で校長室で国旗掲揚、国歌斉唱をしたという話を聞きました。
私自身も教頭時代、校長から誰も見えない所に国旗を掲揚するように命じられ、未明に屋上の時計台の裏に『日の丸』を掲げたことがありました。式典が終わり、皆下校した夕方、私は『日の丸』を降ろしに行きました。こんなことは国旗に対する冒涜です。でも、これが組合教育の現実なのです」
「選挙前の鹿児島県での集会で、日の丸を切り刻んで民主党旗を作った事件がありましたが、あれは戦後教育の結果が表われたにすぎないと私は思います」
安倍政権で自民党は教員免許更新制度を法制化した。教育基本法も改正した。民主党政権下では輿石氏らの主導でこうした一連の改善策が元に戻され、教育現場は否応なく日教組支配体制に引き戻されかねない。
「到底不可能」
民主党政権が掲げるもう一つの問題政策が地球温暖化対策としての大規模なCO2削減である。
民主党は政策集インデックスでCO2削減目標数値として2020年までに90年比25%、05年比で30%を打ち出した。さらに、「2050年までの出来るだけ早い時期に、削減目標値を60%超」にすると宣言した。
民主党の公約である数字について、各種研究機関は軒並み、否定的である。
「実現は非常に困難です」と、日本エネルギー経済研究所の内藤正久理事長は語る。
同研究所主任研究員、松尾雄司氏はさらに踏み込んで断定する。
「到底不可能です。麻生首相の示した05年比15%削減目標値とは比較にならないほど大変なことです」
電力中央研究所社会経済研究所の杉山大志氏も懐疑的だ。
「2050年までの60%削減は日本に工場がなくなることを前提にしなければ可能性はないでしょう。削減モデルの議論の範囲を逸脱していると思います」
ちなみに、杉山氏はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の提言作成に加わった2人の日本人専門家のうちの1人である。
東京国際大学経済学部教授で国家基本問題研究所で温暖化問題研究の主査を務める大岩雄次郎氏が語る。
「各種研究機関が実現困難だと指摘する数値をなぜ、民主党は公約に盛り込んだのか。数値の試算も、実行の具体策も示されないまま、数字が一人歩きしています。推測ですが、自民党の倍近い数値を選択して、違いを鮮明化したかっただけではないでしょうか」
民主党の目標達成には一体どんなことをしなければならないのだろうか。専門家らがあげる項目を幾つか拾ってみる。
◎太陽光発電を新築住宅のみならず、一定規模以上の既築住宅にも設置し、現状の55倍増とする。
◎原子力発電所の稼働率を現状の60%から90%以上に上げる。
◎電気自動車など次世代車の販売を促進し、販売禁止や車検適用不可などの措置で従来型自動車を事実上禁止する。
◎既築住宅にも省エネ基準を適用し、全住宅を改修する。
国民負担も膨大
考えただけでも大変だが、これでも20年までの25%削減は出来ない。そこでさらに次のような施策が必要だと、松尾氏は語る。
「粗鋼、セメント、エチレン、紙パルプなどの主要品目の国内生産を半減又は中止するなどして、輸入しなくてはならないでしょう。粗鋼生産の半減措置で9,700万トン、90年比7・7%のCO2が削減可能にはなります」
理事長の内藤氏が加えた。
「その場合、日本の産業基盤が成り立たなくなる可能性があります。そこまで強制的に削減すると、民間資本による経済の自立的活動が出来なくなる恐れがあります。実現困難な、荒唐無稽な選択は実体経済に悪影響を及ぼします」
国民負担も膨大なものとなる。松尾氏の指摘だ。
「2020年までの一世帯当たりの可処分所得は、22万円~77万円分押し下げられ、家庭の光熱費出費も、世帯当たり11万円~14万円増加します」
氏はまた、日本の実質GDPは20年までの累計で、3・2~6・0%下がり、失業者は77万人~120万人増加すると語る。これは失業率換算で1・9%の上昇だ。
一体全体、国民負担はどれほどになるのか。麻生首相が提言した15%削減には62兆円が必要とされるが、その約3倍の190兆円が要るという見通しもある。だが、杉山氏は民主党の目標値はあまりに大きく、コストや負担を考えられる次元ではないと言う。大岩氏が指摘した。
「中国に粗鋼などの生産拠点を移すと仮定します。中国の省エネ技術は日本よりはるかに劣っているわけですから、却って、CO2排出量は増えていくでしょう」
事実、松尾氏は中国で我が国の粗鋼生産の半減分を生産する場合、CO2は3,000万トンも増えるとみる。
大岩氏がさらに重要な点を指摘した。
「忘れてほしくないのは、日本が排出しているCO2は、全世界の排出量のわずか3%です。これは日本が高度な先端技術を有した省エネ大国である証です。逆に言うと、日本がいくら温暖化対策を推進したところで、全地球規模で見れば、現状ではあまり影響がないんです。そこを見れば、温暖化対策とは何かがハッキリしてきます」
麻生首相は、15%削減は国民1人当たり7万6,000円の負担を伴うと説明した。民主党案の負担は1人当たり33万円から90万円とも言われるが、民主党の説明は全くない。
また、民主党は目標値実現に伴う産業活動の縮小と、結果としての失業増加についても触れていない。そもそも民主党案が国民の幸福につながるのか、国益に資するのか、世界に貢献するのか、それも定かではない。説明責任も果たさない民主党政権のもたらす混乱が懸念される今、党内の確信的保守勢力の果たすべき役割は大きい。
事情はどうあれ次世代エネルギーは急ぐべし…
鳩ポッポ−が、二酸化炭素を1990年度比?で25%ですか?削減するとかで、これ2008年度比だと30%だとか。で、削減するとすごい事になるだとか。ちょっと櫻井よしこ氏のブログから引用しますが。◎太陽光発電を新築住宅のみならず、一定規模以上の既築住宅にも設置し、現状の55…….
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