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2009.06.11 (木)

「 人事院、権限移管に異常な抵抗 」 

『週刊新潮』 2009年6月11日号
日本ルネッサンス 第365回

人事院とはとんでもない役所である。総裁の谷公士(まさひと)氏をはじめ、心が腐っているのではないか。5月29日に人事院が国会と内閣に提出した「国家公務員白書」には、矩を越えた異例の政府批判が展開されている。

批判は、政府が閣議決定して3月31日に国会に提出済みの国家公務員制度改革法案についてである。

政府を批判することのすべてが悪いと言うつもりは毛頭ない。政府の間違いは、たとえ、その下部機関であっても、きちんと意見を表明することが日本のためになる。但し、その種の異例の抗議が意味を持つのは、意見表明が国民の利益と国益の擁護を大前提としている場合である。今回の意見表明の動機は、そのどちらでもなく、人事院と官僚たちの利益の温存をはかる目的でしかない。

官僚の知的怠惰と傲慢が、これまでどれほど国民に迷惑をかけ、国益を損なってきたことか。天下りが如何に官僚の利益のみを軸に行われ、日本全体の足を引っ張ってきたことか。衆議院調査局は、06年度で天下り先の法人数は約4,600、天下った役人は約2万8,000人に上ると公表した。すべてが不必要だと断ずるつもりはないが、4,600法人のなかには天下り役人の生活保障のためとしか思えない法人が目につく。それら法人に06年度だけで12兆6,000億円の税金が注入されたのだ。

安倍晋三元首相はこうした状況を変えようと考え、国家公務員制度改革の基本方向を打ち出した。福田康夫前首相は上辺だけのやる振りをした。麻生太郎首相の下でようやく法案がまとまり、閣議決定を経て、国会に上程された。人事院はその内閣の決定に異を唱えたのだ。

法律からの逸脱

谷総裁以下、人事院の傲慢さを紹介する前に、公務員制度改革の内容をざっとおさらいしておく。改革の柱は、①中央省庁の官僚のキャリア制度を撤廃する、②官僚は定年まで肩叩きをされない、③官民人材交流センターを設置する、である。

②は事実上の天下り禁止条項だ。天下りをさせない代わりに、定年退職後の官僚の再就職を斡旋するために③の官民人材交流センターを設けることになった。

①に関しては、内閣に人事局を設け、各省毎に行ってきた旧来の人事を政府全体として一括して行うことになった。そのために内閣人事局に移す権限として、以下の3点が考えられた。①人事院から課長以上の幹部人事の任用及び給与の決定権、②総務省から機構管理部門、③財務省から給与の査定権である。
こうしてみると、内閣人事局は強大な権限を持つことになる。ここでも改革に猛反発する官僚らが妨害した。彼らは現在も抵抗しており、人事院の提出した白書はその端的な事例だ。

白書には、内閣人事局への機能移管への強い不満がざっと次のように書き込まれている。

「任用・分限の基準設定、遵守状況の監視・審査の役割、採用・研修の企画立案・実施の役割は、使用者である内閣から一定の独立性を持った機関が担うことが必要である」

内閣人事局への機能移管は不適切だと言っているのである。

公務員制度改革に顧問会議の一員として携わってきた屋山太郎氏が、人事院の暴走振りを解説する。

「人事院はこの白書を国家公務員法第24条の規定に基づいて出したと言っています。24条は『人事院は、毎年、国会及び内閣に対し、業務の状況を報告しなければならない』と定めていますが、今回の意見表明は、業務の状況の報告などではなく、24条からの完全な逸脱です。そもそも人事院は内閣の所轄の下にある機関でしょう。私は堺屋太一氏とともに、公務員制度改革に取り組んできました。そこで、官僚らが結束して自己利益と自己権限の擁護に走り、政治家を翻弄する姿をつぶさに見てきました。法解釈も理屈も、彼らは都合のよいように変えてしまう。白書には国民には分かりにくい表現で、とんでもないことが書かれています」

屋山氏が指摘したのは、「定年まで働ける環境の整備」(白書「骨子」の7ページ)の項である。そこには「公務員の身分を有したまま、民間企業や私立大学、公益法人で働けるようにするなど、公務員を人的資源として活用し、定年まで働ける途を検討」すべきだと書かれている。

「公務員制度改革法が施行されると、天下りができなくなります。つまり、退職後に民間企業や公益法人に行くことが出来なくなるわけです。そこで、まだ退職前だという形で、民間企業や公益法人で働ける制度を作るという意味なのです。人事院の主張が通れば、天下り規制のスリ抜けは簡単です。民間企業や公益法人に高齢の役人の押しつけが、これまでどおり、堂々と行われるでしょう」

屋山氏はこれこそ、「天下りシステムの温存」に他ならず、官僚が仕組んだ狡猾な罠だと喝破する。

元の木阿弥

では人事院が提起した問題を潰せば、公務員制度改革は成功するのか。そうではない。麻生首相の下で、同改革は当初の目的から外れ、似て非なる内容となったからだ。

先に、公務員制度改革で内閣人事局が強大な権限を持つことを指摘したが、原案では内閣人事局を新設し、局長は官房副長官クラスの人事として民間人を充てるとなっていた。

ところが、官僚らは麻生首相に、行革の時代にポストの新設は好ましくないと吹き込んだ。

「自民党は、内閣人事局長と国家戦略スタッフの兼務を考えたのですが、宮﨑礼壹内閣法制局長官が、スタッフ(専門家)とライン(命令系統)の兼務は好ましくないと否定して自民党案を潰しました。内閣には兼任の例はいくらでもありますが、麻生首相は官僚に説得され、その揚句、信じ難い結論を出したのです。官僚出身の官房副長官、漆間巌氏に内閣人事局長を兼務させるというのです」と屋山氏。

漆間氏は官房副長官として各省の政策調整の任に当たる。この重要かつ多忙な職責に加えて、各省幹部約600名の人事も担うというのだ。

「出来るはずがありません。幹部人事の評価は結局、各省が行うことになり、元の木阿弥です」

人事権を官僚以外の手に移さなければ、官僚制度改革など出来ない。改革の名の下に、官僚出身の官房副長官が全省庁にわたる政策調整権限と、幹部官僚の全人事権を一手に握る制度が出来上がってしまうのだ。首相さえ及ばない強大な権力を持つ官僚ポストが新設されたわけだ。

政治を真に国民のための政治として機能させるべく考えられた公務員制度改革が、蓋を開けてみれば、またもやモンスターのような権限を握る官僚支配体制にすり替わっていた。背後に、各省、各ポストの官僚の連携があったといってよいだろう。彼らは不遜にも、日本国は官僚のためにあると考えているのだ。

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