「 中国軍事力への米国の警戒 」
『週刊新潮』 2009年4月30日号
日本ルネッサンス 第360回
「中国を、敵として扱えば敵となり、友人として扱えば友人となると言う専門家がいます。馬鹿ばかしい限りです。どう対処するかに拘らず、中国は中国になるのです」
“absurd”(馬鹿げた)の一言でこう断じたのはキャロリン・バーソロミュー氏である。彼女は米国議会の政策諮問機関である米中経済安保調査委員会の委員長で、現在、下院議長を務めるナンシー・ペロシ氏の首席補佐官を、かつて務めていた。委員会は、民主、共和両党が各々6名ずつ委員を選んで構成し、米国の中国政策に直接的な影響を及ぼす。
4月12日から約1週間、意見交換と取材で訪れた米国で、彼女は時折、朗らかに笑いながら明確に語った。こちらが平和と協調を目指せば、世界も中国も、そうなってくれると考えるのは無知のなせる業だと。
それにしても、オバマ大統領の下で米中関係は緊密化しつつあるかに見える。民主党陣営には、国連もG8(主要8ヵ国首脳会議)も機能しないため、米中でG2を開き、世界戦略を決定すべきだという意見も根強い。ヒラリー・クリントン国務長官も、2月の中国訪問の際、世界の大枠を決定する戦略対話を米中両国が定期的に開催すべきだと提案し、共同発表した。米国政府の中国傾斜は、“中国の声”が満ちているワシントンの政治的雰囲気を反映しているともいえる。保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート(AEI)副理事長のダニエル・プレツカ氏はこう語った。
「毎週、どこかで必ず、中国主催のセミナーや研究会があります。つい先頃も、中国政府はある研究に気前よく1,500万ドル(約15億円)をポンと出しました。研究者は喜び、中国研究が増えます。陰に陽に活発に自己主張を展開するのが中国です。けれど、政治の中枢のこの界隈に、日本人の姿はまばらです。中国研究にいそしむ米国人の急増とは対照的に、日本研究者は少数派となり、日本の存在感が薄れています」
米国人が語るアジア政策の多くが中国を中心とする。同盟国ながら、日本は忘れ去られているかのようだ。それでも、先述のように中国に違和感を抱く人々も増えている。
甘かった対中認識
バーソロミュー氏は一言で言えば人権擁護派である。1989年の中国の天安門事件での国民の弾圧、チベット人やウイグル人の弾圧などに厳しい意見をもつ。しかし、いまは強大化する中国の軍事力にも、重大な懸念を抱いている。
「去る3月に、委員会で中国の軍事ドクトリンについて公聴会を開きました。見えてきたのは、中国の軍拡は、当初彼らが言っていた台湾に関する中国の国益を守る目的にとどまらず、そのはるか先を目指しているということです。我々には、たしかに、中国の軍事的意図がよく把握出来ていない面がありました。結果、中国の出方に驚いてばかりだったのです。しかし、いまでは、驚くことに驚かなくなりました」
力を蓄えた中国がどれだけ侵略的になり得るか。中国の実態をようやく把握したというのだ。つい最近まで、米国人の対中認識は甘かった。その実例を彼女が語った。
「国防次官補代理のD・シドニー氏が、中国は軍拡に余念がないが、米国とは十分に協調出来る勢力だと、楽天的な分析を語ったのが3月4日の水曜日でした。しかし、そのわずか4日後にはインペッカブルの事件が起きたのです」
米海軍の非武装海洋調査船「インペッカブル」が海南島沖の公海上で調査活動をしていたとき、5隻の中国艦船が異常接近して、インペッカブルを取り囲み、海中に丸太を投げ込み妨害したのだ。
「こんな事例は少なくないことを、我々は承知しています。中国は大変な進展を遂げ、アデン湾での海賊対策にも貢献しています。しかし、同時に、中国は自分たちの力をどこまで拡大出来るか、我々を、どこまで押しやることが出来るか、試しているのです」
氏は、また、06年10月、空母キティホークが沖縄沖で訓練中に中国の潜水艦が至近距離まで接近し、浮上した事件を指摘した。
「彼らは、気づかれずにここまで接近したぞと、示したわけです」
どの国も軍事力を強大化する権利がある。しかし、何のための強大な軍事力なのかと、氏は問う。
「中国は海にも宇宙にも前例のない速度で軍拡を進めつつあります。加えて、見逃せないのがサイバー攻撃です。IBM関係者の証言を聞いた当初、クレージーなことを、と思いましたが、いまやそれらすべてが現実です」
オバマ政権の陥穽
委員会が発足した2000年当時、彼らはタカ派強硬論者の集りと見做され、パラノイアだと言われさえした。しかし、ある時期から委員会に登場する証言者らが、米国は対中防護策(ヘッジ)をとれと言い始めたという。中国の脅威に対する米国一般の、そして委員会の認識は、ここ数年で変化してきたわけだ。バーソロミュー氏は、中国が宇宙に本格的に有人衛星を打ち上げた4年前がその明確な転換点だったと述懐する。
無論、米国には多様な見方が存在し、ワシントンの政府関係者が皆このように考えているわけではない。経済を重視するあまり、中国の負の側面や中国の脅威に目をつぶる人々も多い。国内経済の回復を最優先するオバマ政権は、その陥穽にはまりかねない。バーソロミュー氏は言う。
「中国が米国債を買ってくれるから、米国は中国を批判出来ないというのは、間違いです。中国の貿易黒字の投資先としては、米国債以外ないのです。一旦買った米国債を叩き売ることは、自国の資産を減らすことで、それも出来ないのです。にも拘らず、中国との経済取引が重要だから、人権についても、軍事についても、他の事柄についても言えないという状況が10年も続きました。経済を口実にするのを止めて、軍事的脅威や人権弾圧を訴える声に、耳を傾け、対処しなければならないのです」
だが、ゲーツ国防長官は、中国の軍拡路線を横目に、ステルス戦闘機F22の生産中止や、空母の削減策などを打ち出した。同方針は、アジアにおける中国の大軍拡を容認し、米国のプレゼンスの弱小化をも受け入れると、受けとめられる。日本にとっては大いなる脅威につながる。
「そのような感じ方が現に存在することを、政府は受けとめるべきなのです」
バーソロミュー氏は、ゲーツ国防長官の提案も、中国の軍事的脅威を懸念する議員らによって、或いは、修正されないとも限らないと語る。
オバマ大統領の外交政策は半ば以上、霧の中だ。こんなときこそ、日本はよりよい日米関係構築のために発言していくべきだ。
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