「深刻化する国家と非国家の戦い」
『週刊新潮』’09年1月29日号
日本ルネッサンス 第347回
パレスチナ自治区のガザ攻撃を続けてきたイスラエルが、17日夜、一方的に停戦を宣言した。米国のブッシュ大統領は、20日の任期切れ直前に、ようやく停戦を実現させたわけだが、死者は幼い子供や女性、お年寄りを含めて1,300人を超えた。
イスラエル軍の攻撃対象だったイスラム原理主義組織のハマスは、一時的に戦闘能力を低下させたものの、潰滅されたわけでも、ガザにおけるハマスの支配が揺らいだわけでもない。戦争はもはや国家対国家で行われるよりは、ハマスやヒズボラ、アルカイーダなどの非国家、テロ組織によって挑発され、引き起こされていくもうひとつの事例である。
中東情勢の安定は、日本のみならず世界の最重要課題である。また、米国の介入なしには同地域の紛争解決は難しい。今回の戦いから、私たちは何を読みとるべきか。中東調査会主席研究員の中島勇氏が分析した。
「今回のイスラエルの攻撃には2つの特徴があります。第一が、イスラエルは政府も国民も一連の攻撃を自衛のためと位置づけていること、第二は、まさに本格的戦争そのものの手法で軍事展開した点です」
イスラエルがガザ攻撃を開始した直後に、駐日イスラエル大使が強調したのも「我々の望みは、国民がいつも通りの朝を迎えられるようになること」だという点だった。まさに自国民を守る自衛戦争だとして開始した戦いを、イスラエル国民は圧倒的に支持した。1月9日にイディオト・アハロノト紙(電子版)が報じた世論調査では、「すべての目的達成まで攻撃を継続すべきだ」とする人々は90%、「インフラや民間人の被害があってもガザ攻撃は正当化される」という人が92%だった。
イスラエル型の戦闘について中島氏は、多くの一般人が住む市街地で小火器ばかりでなく兵器を使ったりするのは、世界の軍の中でイスラエルのみだと指摘する。
「ピンポイント攻撃でテロリストに的を絞って狙うのでなく、住宅地に1トンクラスの爆弾を落としたりし、自らの持てる火力のすべてを使うような手法で、イスラエルはガザを攻撃しています。相手方にどれほどの被害を出しても、自国民を守るためには正当化されるのです」
「暴力団」vs「自衛隊」
往年のベストセラー『日本人とユダヤ人』(山本書店)には、「シオニストが三人よれば五つ政党ができる」という故エシコル首相の言葉が引用されている。それほど議論好きで中々、考えが統一されない人々であるにも拘わらず、"自衛戦争"の承認、どんな犠牲を生じさせても徹底的に相手を叩くべきという点においては、ほぼ、完全な合意を得るのだ。
「自己の生存も、自己の安全も、自己の希求も」すべては、「自らの手で、高いコストをかけて、保持しなければならない」という考えだ。
それにしても、ハマスとイスラエルの軍事力の差はあまりに大きい。中島氏は、たとえは悪いかもしれないがと断って、次のように説明した。
「ハマスが暴力団並みの力だとしたら、イスラエル側は陸上自衛隊と航空自衛隊を合わせたような力だと考えてよいでしょう。双方の力のアンバランスは甚だしいのです。このような戦いに踏み切ったイスラエル側の意図を読む必要があります」
イスラエルは06年夏、イスラム教シーア派の政治組織ヒズボラ(神の党)と、1ヵ月にわたる激戦を戦った。ヒズボラはレバノン領から4,000発ものロケット弾を撃ち込み、イスラエル側の死者は160人を超えた。中島氏の解説である。
「ヒズボラ側にも1,100人を超える死者は出ましたが、この戦いはイスラエル側に深い傷を残したと思われます。イスラエル軍の兵士たちは、降りそそぐロケット弾攻撃を防ぎきれない自軍の限界を嘆きました。オルメルト首相は国民の批判に晒され、支持率は低下。参謀総長も国防大臣も辞任に追い込まれました。
あのときから2年半、イスラエル軍がヒズボラのロケット攻撃に対抗し、国民を守る力を手に入れたかといえば、そうではないのです。ヒズボラによるロケット攻撃はいまも、イスラエルの直面する最大の脅威であり続けています。日本ではイランの核の脅威が強調されますが、それはあるとしても数年先ではないでしょうか。イスラエルにとって喫緊の脅威はあくまでもヒズボラからの攻撃です」
つまり、相対的に力の弱いハマスに対して、今回、全力で攻撃を仕掛けたのは、より強大な軍事力を保有するヒズボラへの警告だというのだ。どれほど強力な攻撃を仕掛けて来ようと、イスラエル軍はこのように徹底的に戦う意思も、力もあるということを示してみせたというのである。
中東史が専門のベングリオン大学教授のベニー・モリス氏は、昨年暮れ、『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙にこう書いた。
「ヒズボラはロシア製ロケットを3万から4万基保有するに至った。供給したのはシリアとイランであり、06年に比較してヒズボラの軍事力はいまや倍増した」
仮想敵「ヒズボラ」
中島氏は、イスラエルは06年の゛敗北″から十分に学んだのだと言う。06年に国民の批判に直面したオルメルト首相は、今回、ハマスに対して大規模攻撃を展開した。それは、万が一、将来、ヒズボラと戦う場合の予行演習ともなった。ヒズボラへの示威効果もあった。加えて、オルメルト首相は国民の支持を回復した。そのうえで同氏は首相の座を降りると発表済みだ。雪辱を果たし、首相を辞めるにしても、如何なる形でか、政治的余力も残したわけだ。
06年のロケット弾攻撃に対処出来なかったイスラエルにとって、たったひとつの防御の盾は、いまのところ、国連による停戦協定である。だからこそ軍事的歯止めも持っておきたいという意図も見える。
だが、イスラエルの目論見どおりの成果が得られるか、多くは流動的だ。その第一が、米国のオバマ新政権の中東政策である。複雑な中東情勢を、オバマ大統領がどう仕切るのかについては、これからを見守るしかない。
もうひとつの要素は、2月10日に行われるイスラエルの総選挙である。直近の世論調査では、現在、最強硬路線を主張する最大野党のリクード党が120議席中30乃至31議席をとると予想されている。連立与党のカディマ党と労働党が、各々26乃至27、15乃至16議席と見込まれる。
中東情勢の先行きを予見することは難しいが、日本がすべきことは明らかだ。麻生太郎首相は、ハマスが支配するガザとは一線を画する形で、パレスチナ自治政府を率いるアッバス議長に対して、1,000万ドル規模の支援を決定した。民生支援とともに、イスラエルや米国の軍事的行きすぎには、公正なる批判を忘れないことである。
蝨ィ譌・繧ウ繝ェ繧「繝ウ縺溘■縺ョ譛ャ譬シ逧?↑譌・譛ャ萓オ逡・縺悟ァ九∪縺」縺ヲ縺?k縺薙→縺ォ豌励▼縺?※縺上□縺輔>縲
縺薙l縺泌ュ倡衍縺ョ譁ケ繧ょ、壹>縺ィ諤昴>縺セ縺吶¢縺ゥ繝サ繝サ繝サ
蝨ィ譌・髻灘嵜莠コ縺ョ譁ケ縺溘■縺後?∬??∴縺ヲ縺?k縺薙→縲∵怙繧ょ盾閠?↓縺ェ繧九〒縺ゅm縺?ィ倩…
トラックバック by 縺ュ縺?衍縺」縺ヲ縺溘=? — 2009年02月02日 13:42