「兵力の支えなき外交では正しい主張も敗北を免れない」
週刊ダイヤモンド』 2008年1月10日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 771
2009年は日本にとって覚悟の年になる。日本の浮沈をかけた懸命の改革が必要な年だ。まともな独立国として、まともな外交政策を推進できない場合に日本が直面する事態を、潮匡人氏が『やがて日本は世界で「80番目」の国に堕ちる』(PHP研究所)にまとめた。
元航空自衛隊員の氏の、具体例に支えられた分析には強い説得力がある。氏は、現在の日本がまともな国といえないのは、外交と軍事が表裏一体であることを忘れてしまっているからだと、喝破する。さらに外相・陸奥宗光の名著、『蹇蹇録(けんけんろく)』から、「兵力の後援なき外交はいかなる正理に根拠するも、その終極に至りて失敗を免れざることあり」の指摘を引用し、日本の現状への警告とする。
08年の年末に起きた事態からも、軍事力なき日本の外交の心許なさがうかがえる。12月8日に尖閣諸島からわずか3.5キロメートルの日本の領海深くに、中国の海洋調査船が侵入し、日本政府の抗議にもかかわらず、中国外務省が同海域での「実効支配」が必要であり、今後、「同海域の管轄を強化する」と発表したことは、12月20日号の小欄でお伝えした。
12月23日には、中国国防省が航空母艦の建造に取り組むことを初めて明らかにした。中国人民解放軍はすでにテスト艦載機の発注なども行なっており、空母建設の準備はかなりの程度、進んでいる。空母建設の理由を、国防省の黄雪平報道官はこう語った。
「中国には広い沿海部がある。領海主権と沿海部の権益を守ることは中国軍の神聖な職責だ」
中国はまた、海賊対策としてソマリア周辺海域とスエズ運河に通ずるソマリア北部のアデン湾に海軍艦艇を派遣すると発表した(「産経新聞」野口東秀記者、12月23日付)。
中国政府は軍艦派遣について、「国連安全保障理事会決議と国際法の厳格な遵守」を公約した。他方、中国国防大学の専門家は、今回の派遣は外洋作戦の経験が乏しい中国海軍にとって、指揮系統と補給系統の合同作戦の演習になると語り、派遣の実利に言及した。
空母建設も、ソマリア沖への海軍の派遣も、中国が海洋国家として力を発揮し、大国の位置を得て、米国を牽制する能力を保有するためであろう。
外交はまさに軍事力によって支えられる。その事実がきわめて明らかなかたちで日本に突きつけられているのが尖閣諸島の事例である。
ソマリアへの艦隊派遣では、国際法の厳格な遵守を宣言した中国政府だが、日本との関係においては「海上の境界線は中間線を原則とする」という国際司法裁判所の判例をいっさい考慮しないのである。大陸棚の延長上に尖閣諸島も東シナ海もあるのだから中国領だとの主張を変えない。結果が一二月八日の領海侵犯と開き直りである。
日本政府の抗議は口頭にとどまる。日本は、すでに領海侵犯を繰り返し、それを当然の権利だと主張する中国に対して、実質的になにもできない状況に陥っている。軍事力を背景にした中国の対日外交に、もの言えぬ国となっているのである。
日本の頼りは米国であろう。だが私たちは、米国でさえ中国の力を無視できずに、いまや、台湾が必要とする自衛のための武器装備を、中国の意向を聞きながら、輸出したり止めたりしている事実から目を逸らせてはならない。あえていえば、台湾は米中両国の合同管理の下に置かれているのである。
日本が、米中合同管理体制への従属を避ける道はたった一つだ。外交と軍事は一体であることを認識し、自衛隊を国軍とすること。そのために、集団的自衛権の行使を可能にし、危機のときの武器使用の規程を定めることである。独立国として、軍事力で外交を支える体制をつくれるか否かが、日本の未来を大きく分けることになる。
第3回 [国防] 集団的自衛権を考える
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約、通称「日米安保」と呼ばれるものによって、日米同盟は成り立っています。日米同盟は、2国間だけではなく、世界にも大…
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