「国籍法や排出権など国の重要事項に無知・無関心の閣僚の資質を問う」
『週刊ダイヤモンド』 2008年12月13日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 768
この記事が読者の皆さんのお目にとまる頃には、国籍法改正案が参議院で可決され、成立しているはずだ。
改正国籍法は、日本人男性と外国人女性のあいだに生まれた子どもに、夫の認知を条件に、日本国籍を与えるというものだ。父子間の血縁関係の証明は必ずしも必要とされないために、悪用される危険性が指摘されている。
日本国籍を取りたい外国人女性と、いくばくかの収入を得たい日本人男性の偽装結婚を斡旋する犯罪が後を絶たないように、日本国籍取得のための偽装認知の斡旋ビジネスが罷り通りかねないという指摘だ。現に、国籍取得の基準を緩和し、トルコ人を主とする多数の外国人を受け入れたドイツは深刻な問題を抱えるに至っている。
他国の失敗の前例があるにもかかわらず、日本はなぜ、失敗事例をまねるのか。理由の一つに、全員とはいわないが、政治家の怠慢がある。残念ながら、その知的、政治的怠慢は、本来、政治に最も責任を持たなければならない閣僚に最も顕著に表れている。
国家の根幹の一つである国籍法改正でどのような負の影響が生じるかを検討もせずに、法務官僚の言うがままに、法改正を閣議決定したのが麻生太郎首相以下、閣僚の面々だ。
平沼赳夫氏からうかがった話だが、某閣僚から氏に電話が入った。国籍法改正案に、内容も知らずに署名、閣議決定してしまった、なんとか止めてくれまいか、という依頼だったそうだ。あきれる話だが、それでも、この閣僚は他の閣僚たちよりもずっとましだ。他の閣僚たちは、そもそも、改正法の問題に気づいてさえいないからだ。
閣僚になるほどの政治家であっても、いかに日本全体のことを考えていないか、もう一つ具体例を挙げる。地球温暖化防止のための二酸化炭素(CO2)排出削減についてである。
周知のように、日本は、他国に勝る高い技術でCO2排出を低レベルに抑えている。一例が、鉄一トンの製造に必要なエネルギー消費は、日本を1とすると欧米は1.2程度、日本より2割ほどエネルギー効率が悪く、そのぶん余計なCO2を排出している。中国は8.5、ロシアは約20。問題外だ。にもかかわらず、排出権取引で貧乏クジを引かされるのは日本だけだ。
京都議定書は日本が6%の削減率を達成できないように制度設計され、結果、日本は、排出権取引で他国から排出枠を購入せざるをえない。つまり、日本よりはるかに効率が悪く、膨大な量のCO2を排出し続けている中国などに巨額の支払いをすることになる。
環境省は12月3日、6%達成のための排出権購入費用を現時点で7,000億円と見積もったが、専門家らはもっと厳しく、2兆~10兆円という見方もある。明らかに日本をターゲットにした京都議定書の枠組みに替わる、より公正で公平な案を、今こそ日本が提案しなければならないのだ。
過日、ある重要閣僚にこの件について話をした。だが、その閣僚は排出権のことはあまり知らないし、興味がないと言うのだ。自分の所管ではない事柄への無知と無関心は驚き以外の何物でもない。そして私の脳裡に「超然内閣」という言葉が浮かんできた。
大日本帝国憲法発布のときに唱えられた、選挙で選ばれ、民意を代表する政治家や政党の意思にかかわりなく、天皇の閣僚が国政をつかさどるという考えだ。政治家は飾りもので、国政は官僚が仕切るということだ。その伝統が今も色濃く残っているからこそ、閣僚は各省次官の全員一致で決まった法案に、無自覚に署名するのだ。政治家の資質が日本の命運に直結するとの自覚がなく、官僚に導かれることになれているからこそ、二一世紀の国運を左右する、排出権取引にも無関心でいられるのだ。官僚依存から脱し切れないとしたら、もはやその党が、責任政党ではありえないのは明らかだ。