「自民、民主の矮小な政局争いで持てる力と好機を生かせない日本」
『週刊ダイヤモンド』 2008年11月29日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 766
今、国際社会は“100年に一度”の金融危機への対処に奔走している。比較的傷が浅い日本は、国際社会の危機打開に大きな力を発揮して、その力をもって、発言力と存在感を高める好機である。
といっても、貿易立国の日本は、海外需要の冷え込みで輸出が減少し、その負の影響を受けるのは当然だ。傷は比較的浅いといって相対的優位の立場をいつまでも保てる保証はないのである。だからこそ、持てる力を認識し、それを活用する政策を、一日も早く打ち出す必要がある。それはまさに政治の責任である。だが、国会で行なわれていることを見れば危機感を深めざるをえない。
自民党、民主党が争っているのは、追加の景気・経済対策のための第二次補正予算案をいつ、国会に提出するのかというタイミングについてである。それは、今月末で終了予定の国会の会期延長問題に結び付き、さらに、新テロ特別措置法案や金融機能強化法案の採決を民主党参議院が拒否する場合、衆議院に戻して三分の二条項で可決させるには、いつまで国会を開いていればよいのかという議論に結び付く。
自民、公明、民主の三党が精力のかなりの部分を費やしているのは、国会対策政治にすぎない。会期切れを、どのように自党に有利に使うかという、じつにつまらない日程上のやりくり戦争を演じているのだ。その一方で、政治家たちが内容についてよく知らない、たとえば今問題になっている国籍法の改正法案などが、上程され、閣議決定され、可決寸前までいっている。重要法案の内容も知らず、会期制の下での時間切れを材料にして、本当に無意味な闘いを続けているのである。
わが国の政治は、明らかに、おかしい。そのおかしさをよく見ているのが、国際社会である。
政治家、エコノミスト、安全保障の専門家ら、世界を牽引すると自負する人びとが必ず読む専門雑誌の一つに「フォーリン・アフェアーズ」がある。同誌では世界の枠組みづくりに関する議論が活発だが、じつに悲しく口惜しいことに、日本についての言及は、およそ見当たらず、そういう状態はここ数年来のものである。
今年夏に、私は「文藝春秋」の企画で「日中大論争」を行なった。そのなかで中国人民大学国際関係学院副院長の金燦栄氏がいとも簡単にこう言った。
「現在の国際社会において、自分で自分のことを決断できる国は、米国と中国だけです」
金氏は、中国と日本を含めて西側諸国との関係で、西側が戦略ゲームを弄するのは無意味である、なぜなら西側諸国の多くは決断するだけの力がないのであるからという文脈で語ったのだ。
日本もEUも、一人前の発言はできないのであるから、米中両国に従うべしと言わんばかりの金氏の発言はいかにも不遜だが、前述の「フォーリン・アフェアーズ」には、米国側から同種の発言、分析が数多く出されている。
たとえば、現職の財務長官、ヘンリー・ポールソン氏は、WTOも金融制度も、これまでは米欧が中心になって制度設計をしており、中国の価値観は反映されていないとし、中国の価値観を反映させることの重要性を強調している。著名なエコノミストのフレッド・バーグステン氏は、いまや米中がG2(先進二ヵ国会議)を形成し、世界を主導するときだと述べる。問題によっては「日本にも相談する」「中国重視の結果、EUの重要性が低下するのもやむをえない」とも明記している。
米国はオバマ政権誕生で中国一辺倒の傾向を強めるだろう。今こそ、日本は自ら恃んで日本の立場を確保し、国益を守らなければならないのは明らかだ。政治家は自党の都合で国会審議の日程をめぐって争うのでなく、日本の政治の貧困を見据える国際社会の醒めた論調にこそ耳を傾けてほしい。