「国家の土台を蝕む権力と果敢に闘う“言論人の手本”」
『週刊ダイヤモンド』 2008年11月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 765
10月末、韓国の言論人、李度迴ゥ(イ・ドヒョン)氏にお会いした。氏が「髮ゥ南(ウナン)愛国賞」の第一回受賞者に選ばれ、有志によるお祝いの会が日本で開かれたのだ。
同賞の名称は、李承晩大統領の号を取って髮ゥ南とされた。趣旨は「建国60周年を迎え、自由、民主の建国理念を忠実に守り、親北朝鮮・反逆政権の終息に貢献した愛国活動を称えるため」で、「大韓民国愛国会」が制定した。
「愛国会」というと、日本人は、おどろおどろしいイメージを抱きがちだが、北朝鮮の脅威を受け続けて今日に至る韓国の愛国活動は、まじめで真剣だ。
今回、同賞の第一回受賞者となった李度迴ゥ氏は、これまでにも数々の賞を受けてきたが、いずれも、第一回受賞者である。時代の最先端で発言してきた言論人であることがうかがえる。
朴正熙(パク・チョンヒ)時代にも金大中時代にも、いつの時代も氏は“権力との闘い”を続けてきた。日本とは異なり、韓国では、厳しい権力批判は実害を及ぼしがちだ。そのなかでの氏の言論活動は、真に見上げたものである。
事実、現在も氏は、金大中氏批判によってひどい目に遭っている。これまで、氏は『金大中疑惑』をはじめ、金氏について多くの著作を世に問うてきた。その一部が、『金大中 韓国を破滅に導く男』(草思社)として日本でも出版されている。取材による裏打ちもしっかりしており、知的かつ慎重な表現ながら、書くべきことは大胆果敢に書いた内容だ。金大中氏が権力者として彼を憎むのも当然だと思われる。
1997年12月の大統領選挙に金大中氏が立候補したとき、李氏は厳しい批判を展開した。すると金大中氏は、大統領に当選するや否や、いきなり李氏を名誉棄損で刑事告訴したのだ。韓国の大統領は憲法八四条の規定によって「内乱または外患の罪を犯さない限り、在職中刑事上の訴追を受けない」。制度上厚く守られ、絶大な権力を有する大統領が、一言論人を刑事告訴するのは異常である。その影響を司法が受けないとは考えにくい。こうして李氏は敗訴した。
氏への迫害はそれだけではない。金大中氏支持の市民団体もいっせいに氏を告訴したのだ。金大中氏が大統領選で勝利したのは97年12月だが、選挙を前にして韓国には左翼系300、保守系150といわれるほど多くの市民団体が生まれた。最も熱心な金大中派は「経済正義実践市民連合(経実連)」や「参与連帯」などだ。
李度迴ゥ氏は、97年10月の「大統領候補招請思想検証大討論会」でこれらの市民団体の健全性に疑義を呈し、「経実連といっても、裁判所に提出された証拠が示すように、政府や大企業の弱みにつけ込んでカネをむしり取るだけではないか」と、批判した。
すると、またもや経実連、参与連帯をはじめ、民主化のための弁護士会やキリスト教団体など五団体が告訴した。討論会での発言には討論会で反対意見を出せばよいだけだ。にもかかわらず、李氏の発言とは無関係のキリスト教団体などまでが告訴に加わった。
一審で李氏は10億ウオンの慰謝料支払いを命じられた。高裁で和解を勧められたが、原則の問題だとして拒絶し、慰謝料は1億ウオンに下がった。支払いのために六億ウオンの自宅は四億ウオンで競売にかけられた。1億ウオンの慰謝料に法定利子6,000万ウオンを支払い、他の同様の告訴の慰謝料を支払い、最終的に氏は約2億ウオンの負債を抱えた。現在は賃貸住宅で、「韓国論壇」を主宰して健筆を振るう。氏が語った。
「権力批判でこのような目に遭うのであれば、誰も批判しなくなります。言論を裁判で封じる法殺。法殺の国家では、ありとあらゆる不正が横行します」
北朝鮮との暗い関係を疑わざるをえない金大中氏をはじめ、韓国の土台を蝕む勢力との闘いを果敢に続ける李度迴ゥ氏こそ、言論人の手本である。氏の姿勢こそジャーナリズムの原点である。