「戦略なき日本に、日米同盟の危機」
『週刊新潮』’08年10月30日号
日本ルネッサンス 第335回
10月19日夕方、中国の軍艦4隻が船団を組んで津軽海峡を横断、日本海側から太平洋側に抜けた。
4隻は、ロシア製の駆逐艦ソブレメンヌイ級、中国製で最新鋭のフリゲート艦ジャンカイⅠ級と同Ⅱ級、それに補給艦だ。ソブレメンヌイ級駆逐艦は、米国も恐れる音速の4倍速のミサイルを搭載する。同ミサイルは海面6メートルの超低空で飛行するため、レーダーでの捕捉が難しい。
2000年、中国の情報収集艦は津軽海峡を日本海側から太平洋側に一回半、往復した。海流、水温、海底の地形などに加えて、北海道、本州北部を飛び交う日米両軍の電波などを探ったと思われる。
あのときから8年、今回、初めて中国の戦闘艦が津軽海峡を堂々と横断したのだ。中国海軍の展開範囲が目に見えて拡大しているのである。
中国人民解放軍は、実質を備えない脅しは持続的な威嚇作用を持たない、威嚇は必ず真実性を伴わなければならないと考える。海軍力構築の効用は、ただ世界の海を航行することで諸国に政治的恫喝効果を与え得ることだと考える。中国海軍の強大さを諸国に認識させさえすれば、中国の政治力、外交力も自ずと高まると、彼らは考える。
中国海軍はいま26万人体制、北海、東海、南海の三艦隊は各々、水上艦艇部隊、潜水艦部隊、航空部隊、陸戦部隊、海岸砲兵部隊で編成され、宇宙への軍拡を支える柱となった。
米国の太平洋軍司令官のキーティング氏が、中国海軍の強気について、今年3月12日、米国上院軍事委員会で証言した。中国を訪れたとき、中国海軍幹部が、「ハワイを基点として太平洋を二分し、君ら(米国)がハワイ以東、我々はハワイ以西を取る」ことを提案したそうだ。
この情報は、キーティング氏の証言の翌日、シーファー駐日大使が日本の記者団に語った。大使は、中国の提案を、深いメッセージを込めて日本に伝えたはずだ。
その意味は、日本がしっかりしなければ、中国の描くシナリオの方向に事態は動いていきかねない。米国にとって、アジアのパートナーは未来永劫、日本に限定されているわけではないというものだろう。
米国の抱いた不快感
シーファー大使の情報伝達から7ヵ月余り、日本の対応は米国の期待を悉く、裏切るものだと、ジム・アワー氏は語る。氏は米海軍出身、ワインバーガー元国防長官の下で日本担当補佐官として活躍。リチャード・アーミテージ氏の片腕とも評される氏は、1988年にバンダービルト大学公共政策研究所に日米研究協力センターを創設した。以来20年間所長を務め、日米関係を見詰めてきたアワー氏が語る。
「日米関係は、日本人が考えるより遥かに深刻です」
日本側には、北朝鮮をテロ支援国家指定から外したブッシュ大統領への以下のような不満がある。指定解除は北朝鮮の核保有を認めたことであり、日本は北朝鮮の核攻撃の脅威に晒されている。日本周辺には、中国、ロシア、インド、パキスタンなど核保有国が並んでいる。であれば、日本の安全保障のために、日本も核の備えを整えなければならない。その方法としては、日米同盟をより堅固にし、米国の゛核の傘〟を機能させる道がある。それには、現在の非核三原則を二原則に変えて、核持ち込みを可能にすることだ。
一方、日本はアフガニスタンでのテロとの戦いの支援のためのインド洋での水及び燃料の補給を続け、集団的自衛権の行使を可能にすることなどを急ぎつつ、日本の安全保障を日本自身が担保出来るようにする必要がある。究極的には核兵器を保有すべきか否かの議論を進めたほうがよい。こうした考えが日本にあると、伝えていたとき、氏は米国側の感じ方は、そうした日本側の感じ方より、遥かに厳しいと述べたのだ。最も親日的な米国人の一人と言ってよいアワー氏はざっと次のように語った。
「インド洋での海自の補給活動の継続問題が国会で議論されていますが、日本が供給する油を米国側が素直に受ける気になりにくい状況が生まれています。アフガニスタン用に供給した油をイラクでも使っているのではないかと、日本側は質しました。双方ともにテロとの戦いです。米軍の艦船はその時々の状況で動きます。この燃料はアフガン用だけと限定されれば、非常に使いにくい。米国側に、日本は難しい、つき合いにくい相手だという思いが生まれているのは事実です」
07年10月、国会で質された石破茂防衛大臣(当時)は、日本が行った800回近い補給を目的外に使用したか否かを調査するとして、米国に問うた。米国は情報を開示したが、かなりの不快感を抱いたというのだ。
更なる日米同盟強化を
日本の安全保障の観点から考えても、当時の議論は的外れだ。日本は中国に、他国とは桁違いのODAを与え続けた。民生用支援と言いながら、実際にODAがどのように使われたのかについては質していない。いま明らかになっているのは、日本のODAこそが中国の膨大な軍事力の構築を助けてきたという事実だ。また、日本が国連安保理常任理事国入りを目指したときに明らかになったように、国際社会で親中国派勢力を作り、中国はそれらアジア、アフリカ諸国を束ねて、日本に対抗した。中国がそれら諸国を束ね得たのはODAの効果だった。日本の対中ODAが、アジア、アフリカ諸国への中国のODAにすり替わっていた可能性もあるが、日本は一切、質そうとしない。日本の国益の視点、または同盟国の視点でこうした状況を見れば、その矛盾は明らかであり、米国の不快感も理解出来るのだ。
「対日不満の根本原因は、どれだけ海自が懸命に働いていても、とどの詰まり、共に戦っているわけではないからです。海自の補給は軍事行動ではなく、商業活動です。イラクのサマワでの陸自の活動も軍事行動ではありません。
決して日本は軍事的貢献をしないとなれば、いずれ、より信頼出来る相手を探さざるを得ないと米国が考えるのも、当然です」
日本の給油もここまで過小評価される。だが、アワー氏も、太平洋分割支配の中国提案を日本側にもたらしたシーファー大使も、問うているのだ。日本は信頼に足る同盟国になる気があるのかと。その気がなければ、米国は組む相手を変更する可能性さえある。その可能性は、民主党政権が誕生すれば尚強まるだろう。
だからこそ、日本の努力が必要だ。まず、中国、北朝鮮などの脅威に備えるために死活的に必要な日米同盟を実質的に強化することだ。集団的自衛権の行使に踏み切り、まともな国として、米国に「同盟相手が、価値観を異にする中国でよいのか。日本以外にないはずだ」と自信を持って問い返せる立場に立つことだ。
日本という国の価値②
世界的に「卑怯」な事をしない国だと 思われている事だと思う。 卑怯な事を許せないのを 融通が利かないと思っている国も有ると思う。 しかしその融通という物自体を 恥じる時…
トラックバック by phrase monsters — 2008年10月31日 17:43