「新たな冷戦が始まった “力治国家”への備えが不可欠」
『週刊ダイヤモンド』 2008年8月30日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 753
「新たな冷戦の始まり」。8月8日、北京五輪開幕の日の、ロシアによるグルジアへの軍事進攻を、欧米諸国はこのように形容する。
米国のライス国務長官は8月19日、ブリュッセルにあるNATO(北大西洋条約機構)本部での臨時外相会談に出席して、こう述べた。
「ロシアとの関係は、進攻前と同じ状態には戻らない」
つまり、ロシアに対する信頼は崩壊したと言っているのだ。NATOは、グルジアの領土保全とグルジアへの全面的支援を実行していくために、定期協議機関を創設することで合意した。グルジア進攻も、自由選挙で選ばれた政権を倒して傀儡政権をつくることも許さないという、ロシアへの強いメッセージである。それは、ロシア軍は南オセチア自治州に救援を頼まれたから出兵したのだというロシアの主張を真っ向から否定するものでもある。
ただし、NATOが具体的に何をなしうるかについてはきわめて悲観的だ。そもそもNATO諸国が対ロシア政策で一致しているわけではない。米英両国に加え、旧東欧諸国のポーランドやバルト諸国が、グルジアおよびウクライナの早期NATO加盟を認めるべきだと主張するのに対し、ロシアとの関係が近く、また、ロシアの天然ガスに依存するドイツ、フランス、イタリアなどは慎重である。ロシアは明らかに、NATO側の足並みの乱れを見透かしたうえで、慎重に事を運んだのだ。
ロシアの軍事進攻に、なす術もないEU諸国の状況は、日本に何を伝えているか。EUを日本に、ロシアを中国に置き換えてみれば、いくつもの教訓が見えてくる。
第一は、ロシアが、旧ソ連がそうであったように、自らの勢力圏だと考える地域や国々には軍事進攻しても構わないと考えている点が、中国ときわめて似通っているということだ。
中国は台湾を自らの勢力圏どころか、自国領だととらえる。これまで幾度も、中国は、台湾が独立の動きを見せるときは軍事力を行使すると宣言してきた。日米両国が2005年のいわゆる二プラス二(日米安全保障協議)で、台湾問題の平和的解決、つまり、軍事力の行使は許されないと宣言したとき、中国は、グルジア問題でのロシアと同じく、激しく反応した。
第二に、状況次第では軍事進攻も辞さないという武力への信奉は、ソ連時代と変わらずロシアに根強く残るが、これも中国との共通点であることだ。
ロシア専門家の伊藤憲一氏はロシアを「力治国家」、つまり暴力や武力によって統治する国家と呼んだが、それはこの20年来、異常な軍拡を続けてきた中国に共通する要素だ。民主主義国では、武力進攻の決断は、議会の承認などの手続きが必要だ。決断までにはそれなりの時間もかかる。しかし、一党支配であれば即決し実行が可能である。国際社会が危機に気づく前に彼らは軍事進攻を成し遂げてしまうのだ。
この状況はまた、中国においてまったく同じである。
今回、EU諸国は、ロシアへのエネルギー依存という事情ゆえに、政治的発言はできても、グルジア防衛の行動に出ることは困難である。米国も、その余力はおそらくないであろう。となれば、状況はロシア次第ということになりかねない。つまり、グルジアを守ることは難しいのである。
台湾とグルジアは同一ではないが、それでも私たちは考える必要がある。台湾有事の際、日本や米国に何ができるのか、と。同時に、日本はエネルギーのみならず、食糧も、圧倒的に他国に依存していることを忘れてはならないだろう。EU諸国がロシアに対してきわめて脆弱になり果てたように、日本は、中国を含む諸外国に対して、脆弱極まる国家となった。「新たな冷戦」の下で、日本国としてやらなければならないことは多い。
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先…
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【露×グ】ロシアの現在の行動はどうにも腑に落ちません。…
<前置>
※ただ今IEだと右側の表示がおかしいです。
ブログタイトルの下にも載せましたがウラジーミル・ウラジーミロビッチ・プーチンと言えば、
「ソ連が恋しくない者には…
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