「首相に任せられるか、中国外交」
『週刊新潮』’08年5月8日号
日本ルネッサンス 第311回
外交は勝れて国益のためにある。個人の名誉や趣味のためではない。5月6日、中国の胡錦濤国家主席を迎える福田康夫首相は、その点を履き違えているのではないか。
日中首脳会談では日本にとっての重要問題が、中国にとっての重要問題とともに取り上げられなければならない。日本の国益に関わる両国間の懸案事項はざっと考えただけでも非常に多い。
尖閣諸島の領有権と東シナ海のガス田開発は最も切迫した問題であろう。すでに15年間も続いている徹底した反日思想を植えつける歴史教育は、両国関係に巣くう最も深い病巣で、日本としては見逃せない問題だ。日本の運命に大きく関わってくる台湾問題も避けて通れない。台湾問題と密接に重なるチベット問題も同様だ。日本国民の生命、健康を脅かした毒入り餃子事件についての中国側の責任逃れも放置出来ない。環境問題に関しては中国政府の努力を要請しなければならない。中国の軍事力増強はとりわけ厳しく問わなければならない。
で、福田首相は、一体こうした問題の何を、胡主席と話し合うのか。東シナ海のガス田開発については、胡主席の来日に先立って訪日した楊潔邂至O相がこう語っている。
「日中双方は協議を継続することで一致した。できるだけ早く、互いに利益のある解決策にたどり着けるよう努力する」(『朝日新聞』4月20日朝刊)
つまり、首脳会談を開いても問題は解決されないのだ。それを承知で臨むのは、会談ではそれを論じない、取り上げないということだ。したがって福田首相が東シナ海問題の早期解決を望むなどと発言しても、それはアリバイ工作だということだ。
親子二代で中国に仕える
尖閣諸島と東シナ海問題は、歴史的に見て、福田首相にはとりわけ重い責任がある。話は遡るが、現首相の父、赳夫氏が首相だった1978年、日中両国は平和友好条約を結んだ。それを機に、前例のない巨額のODA(政府開発援助)が日本から中国に流れ込んだ。そのときの中国にとって、日本の資金や技術援助は死活的に必要だった。与える側として、圧倒的に有利な立場に立っていた日本は、その好機を尖閣諸島と東シナ海問題の解決のために活用すべきだった。しかし、赳夫首相はそれをせず、国益を無視して平和友好条約を結んだ。同条約を機に中国に与えられたODAは、中国軍の強化、近代化に大きく貢献し、いまや、日本を脅かすまでになった。東シナ海では中国海軍の軍艦が日本を睥睨し、迂闊に尖閣諸島に近づいたり、当然の権利としての東シナ海開発を進めることさえ、難しくなった。
現首相が東シナ海問題の決着を、父同様、先延ばしにして、中国が喉から手が出るほど欲している環境技術などを安易に渡すとしたら、親子二代にわたって日本の国益を損い、国民を裏切ることになる。そのことを承知で、首相は東シナ海問題を事実上、放置するのか。
次にいま、全世界の注目を集めるチベット問題である。首相は4月2日夜、官邸で記者団に対し、「チベット問題は中国の内政問題」だと断ったうえで、「人権にかかわるようなことがあれば心配、懸念を表明せざるを得ない」と述べた。
国際社会では、チベット問題は決して中国の国内問題ではないとの批判的見方が主流だ。EU議会は、北京五輪開会式への参加を見合わせるよう加盟国首脳に求める決議をし、独英両国首脳をはじめ、各国指導者層に同様の流れがある。国際社会は直接間接的に、中国のチベット弾圧に抗議しているのであり、対して福田首相の発言は際立って中国政府寄りだ。流石に、首相の突出発言に対し自民党外交関係合同部会にみられるように、党内からも異論が出た。
そうしたなか、4月18日、首相は楊外相と会談し、チベット問題は中国の国内問題とする見解を繰り返す同外相に、同問題はすでに「国際的な問題となっている」、「現実を直視する必要がある」と、発言するに至った。たしかに半歩前進だが、余りに感覚が鈍くはないか。その日午前には、日本での聖火リレーの出発点となるはずだった長野市の善光寺が辞退を表明した。仏教徒のチベット人への弾圧を続ける中国政府主催の北京五輪に、同じ仏教徒として、恰も問題が存在しないかの如く参加することは出来ない、という抗議の表現である。善光寺をはじめ、国民の多くが、中国のチベット弾圧に深い疑問を抱いていることを首相は知るべきだ。にもかかわらず、日中首脳会談ではチベット問題を取り上げる予定は、現時点ではないそうだ。
喉から手の出る「共同宣言」
尖閣、東シナ海、チベットを措いて、何のための首脳会談か。中国側が最も熱心に望んでいるのが台湾問題での日本の譲歩だ。中国はすでに、米国のブッシュ政権から、台湾の独立に反対という言葉を引き出している。日本にも同じことを、出来ればさらに踏み込んだ発言をさせたいと中国は考えている。
2004年、中国はロシアとの国境問題を解決した。ロシア、中央アジア諸国と共に上海協力機構を構成し、07年には、アフガニスタン、インド、パキスタン、イランなどまで招いて合同軍事演習を実現させた。背後を固めた中国は、南進して台湾支配を確立する準備を整えたのだ。台湾についての、米国及び日本への牽制はそのためだ。米国の言質をすでに取り、南進の準備が整いつつあるいまが、日本の言質を取る絶好の時機なのだ。
幸いにも日本側が台湾問題で譲ることはない。だが、それでも中国は自らが最重要と考える台湾問題を首脳会談の議題に盛り込んできた。彼らは成功するまで、繰り返し、日本に迫るだろう。これが国益を賭けた外交というものだ。翻って福田政権は、東シナ海もチベットも、おまけに毒餃子事件も議題にしないのだ。それでも日本国政府か。
こんな中身のない首脳会談は無意味であろう。共同宣言を出す必要もないだろう。だが、福田首相の直接指示によって共同宣言は出されることになった。首相の念頭にあるのは、自分の業績なのである。
これまで日中間で合意された文書は三つある。1972年、田中角栄首相の日中共同声明、次は前述の78年、福田赳夫首相の日中平和友好条約。そして98年、小渕恵三首相の日中共同宣言だ。今年は現首相の父の結んだ平和友好条約から30年の節目に当たる。
日本史上はじめて父と子で首相となった福田首相の、いわば第四の文書を発表することで、父の業績に自らの業績を重ね、日中の礎となりたいとの個人的な想いが透けてみえる。個人的な想いで外交を弄ぶことこそ許し難い。福田首相の過度な親中外交を強く懸念するゆえんである。
【5/25】フリチベTシャツ着て渋谷でウロウロ禁止+千葉も当日オフ!
引用が錯綜してきたのであんまりしたくないのですが当記事は色を変えさせて頂きました。
なぜ色を使わないようにしているかと言うとデザイン面の拘りとコピペや色盲の方にも対…
トラックバック by 帝國ブログ — 2008年05月20日 22:25
福田は「翌檜ガス田」を利用し世論を騙した
日中、東シナ海ガス田「翌檜」の開発断念・・・韓国に配慮し
・・・福田に騙された・・・・・・。 韓国との境界線は突然出現したわけでもあるまい。 最初からこうなることは…
トラックバック by 政治ブログ — 2008年06月23日 05:17